投票率が上がることが正義なのか? --- 選挙ドットコム

(編集部より)選挙ドットコムの人気連載「小池みきの下から選挙入門」からの転載です。


「浜畑議員のSMクラブの飲食代について本人に直接説明を求めましたところ、この通り、政治活動費には一切計上していないことがわかりました」
――『民王』4話「盟友」より

歴戦の選挙プランナー・三浦博史氏の話には、“選管の神様”こと小島氏の話とはまた違う納得や驚きがあった。私が一番驚いたのは、「投票率を上げることが正義というわけではない」という話である。

【三浦氏】
「日本では『投票率を上げなきゃいけない』ってやたら言われるでしょ。でも僕はちょっと意見が違ってね。投票率の高い国が、必ずしも民主主義的に優れた国だとは言い切れないと思っています」

【小池】
「え……どういう意味なんでしょうか? 投票率は高い方がいいに決まっていますよね?」

【三浦氏】
「小池さんが、生まれてから一度も、自分の住んでいる街に不満を持ったことがないとするよ。そういう中ではたして、選挙や政治に興味が持てるでしょうか。少なくとも、その市長に何かもの申そう、あるいはその市長を倒そうと、自ら挑戦しようと思いますかね?」

ドキリとした。正直私は、これまでに住んできた街に、とりたてて不満を持ったことがない。評価基準が低いからかもしれない。そして「政治」にもあまり興味を持ってこなかった。渋谷区のど真ん中に住んでいたときは人ごみが苦痛だったけど、だからといって陳情を出そうと思ったこともない。そういうものだと諦めていたからだ。
【三浦氏】
「不平不満が少ないと、政治への関心が薄くなる。『今のままでいいじゃん』と思う人が、選挙に行かないのは、政治に不平不満が少ないからというケースもあるんです。反対に、政治への不平不満が多い国では、学生や若い人たちによるデモが盛んに行われ、投票率も高いですよね。大事なのは、『投票率が高い』ことだけが正義なのかどうか、という原点に戻って考えることです。だから投票したら商店街の割引券とか、ドリンクサービスといったおまけをつけようなんて考えもあるけど、それって邪道じゃないですか? そもそも、選挙に行くこと自体に魅力を感じるような動機付けがないと、有権者は本当には動きません。政治や選挙の根本的な前進のためには、有権者の関心を惹く選挙、即ち選挙自体を楽しく面白いものにしなきゃいけないんです」

このサイト、選挙ドットコムの掲げているスローガンも、「選挙をもっとオモシロク」だ。なんでオモシロクならなければいけないのか。それは、そうでなければボランタリーはあり得ないからだ。

「行け」と命じられて行く選挙から、「行きたくて」行く選挙へ……そういう変化を、私たちは作っていけるのだろうか。すでに変化は始まっているのだろうか。
【小池】
「昔と比べたら、選挙の世界って明るくなったんでしょうか?」

【三浦氏】
「なりましたとも。一番変わったのは、お金の使い方がすごくクリーンになったということです。昔は、どっかの政党の幹事長が一人で百億集めて、ばらまき、最後は金庫を空っぽにして次の人に引き継ぐ、なんてこともあったみたいだけど、今は政党交付金という公的資金が入っているからね」

【小池】
「(小声)参謀長……政党交付金のこと実はよく知らないんですけど、あれってなんなんですか」

【マツダ参謀長】
「税金から政党に支払われるお金ですよ。政党の活動のために使われます。1994年に、政党助成法が制定されてから交付されるようになりました。財源が税金なので、政党は国民に対して、それを何円もらって何円を何に使ったか、正確に公表しなきゃいけないんです。それまでは企業とか労働組合からの献金っていう名目で、使途が不明瞭なお金もたくさんあったんですけど」

【三浦氏】
「政党交付金は、いくら使ったかちゃんとオープンにしなきゃいけないものです。『俺の金を、俺の使いたいように使って何が悪い』なんて言えない。だから、裏金は劇的に減りました。政党交付金の導入について賛否両論あるけど、僕は評価するべきだと思っています」
政治家といえば賄賂、というイメージは今でもあると思う。テレビドラマや映画に出てくる政治家の半分くらいは、料亭で札束をやりとりしているのではなかろうか。でもそれは昔の話で、今はそんなことそうそうできないらしい。

【三浦氏】
「あとはね、松田さんみたいな若い人が選挙プランナーをやっているってこと自体が業界の劇的な変化ですよ。30年前だったらありえない」

現在35歳のマツダ参謀長は20代後半で選挙プランナーを名乗り始めた人で、長らく「日本最年少選挙プランナー」と呼ばれていた。すでに業界10年目だが、まだまだぶっちぎりで若い方だろう。
【三浦氏】
「僕がこの仕事を始めた時はもう40歳近くになってましたが、当時の政治や選挙の世界では40歳なんか鼻垂れ小僧。ですから政治家にあれこれ真剣にアドバイスしても、『お前みたいな若造に言われたかねえ』って顔に書いてあるんだよ。周りの、いわゆる選挙プロも大体60歳くらいでしたし」

【小池】
「今よりもっと閉鎖的だったんですね」

【三浦氏】
「公選法を無視してつかまる選挙ゴロは今でもいるし、変な輩が完全に駆除されることはないけど、若い人含め選挙に関わる人が増えてきたおかげで、全体的に本当に明るくクリーンになりましたよ。選挙事務所の雰囲気も、一般的に和やかになりつつある。それでも、戸別訪問の禁止を含め、今の選挙制度に不備はないのか、国民が投票に行かない、行きにくい理由は何かとか、色々と議論しながら、一つひとつ変えていきたいとも僕は思っています」

三浦氏の表情は明るかった。


小池みき:ライター・漫画家
1987年生まれ。郷土史本編集、金融会社勤めなどを経てフリー。書籍制作を中心に、文筆とマンガの両方で活動中。手がけた書籍に『百合のリアル』(牧村朝子著)、『萌えを立体に!』(ミカタン著)など。著書としては、エッセイコミック『同居人の美少女がレズビアンだった件。』がある。名前の通りのラーメン好き。


編集部より:この記事は、選挙ドットコム 2015年10月2日の記事『投票率が上がることが正義なのか?(小池みきの下から選挙入門 .15)』を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は選挙ドットコムをご覧ください。