新聞の人生相談の“いい加減さ”に怒り --- 田中 紀子

今日は、新聞にこんな人生相談が載りました。
「ギャンブル三昧で借金を重ねる次男が心配」だと。父親も競艇にはまり、小学生の頃から父親に競艇場に連れていかれていて、やがてギャンブル三昧になったのだそうです。


そしてお母さんはこう嘆きます、
「何度ギャンブルをやめろと言っても止めません。」
親として何をすれば良いかアドバイスをして欲しいと、悲痛な訴えを切々と書いていらっしゃいました。

それに対する回答者の答えはこうです。
「もっと真剣に親の自覚を持ちなさい」と。

朝から、怒りで手が震えました。

失礼ですがそっくり、そのままお返しします。
「もっと大新聞の自覚を持ちなさい」と。

親の自覚をもっているからこそ、世間さまに迷惑をかけてはならないと、何度も尻拭いをしたのです。

親の自覚があるからこそ、何度も注意をし、それでも効果がないことに、絶望し途方に暮れているのです。

その回答者はこうも続けています。
「家族で腹を割って話し合いなさい」と。

その上から目線の無知な言い草に、心から腹が立ちます。

話し合いなんて、何十回も何百回もくり返してきたのです。そして、そんなものは無駄に終わるのです。何故なら、ギャンブルの衝動が制御できない「病気」だからです。

ギャンブラーだって、やめたいのです。
「もうこれが最後。二度とやらない。」
「今度こそ本当ね?絶対よ!」
なんどそんな会話が繰り返されたことでしょう。でもやめられない。
その辛さや、その病気の残酷さなんか、あなたには微塵も分からないのでしょうね。

お願いです。
新聞で人生相談をするのなら、社会問題に対してもっと敏感に学んで下さい。貴紙においても何度も何度も「ギャンブル依存症」は取り上げられています。あなたは自分が連載している新聞をお読みにならないのでしょうか?

もしこの問題に対して「良く分からない」とお思いなら、いい加減な知識で、どうぞお答えにならないで下さい。あなたが二度とギャンブル依存症問題について、ご意見を述べないことを、心から切望致しております。

今日、あなたの答えを見て、何万人ものギャンブル依存症に苦しむご家族が
「やっぱり自分のせいなのだ。もっと話し合いが必要なのだ」と自分を責め、生き地獄から抜けられなくなりました。地獄が続くこととなった、何人かのご家族は、自死に直面するのです。
脅しではありません。私たちの真実です。

ギャンブル依存症は病気です。
必要なのは治療であり、そのためにはまず家族が、我々のような相談機関や、家族向けの自助グループに繋がるべきです。

あなたは「お母様、大変でしたね。息子さんはギャンブル依存症という病気なんですよ。」
と、これまでのご家族のご苦労をねぎらい、共感し、重荷を下ろす手伝いをし、そして何よりも「正しい」情報を提供するべきでした。

今日、私は本当に大変な一日でした。泣きながらのSOS。
家にあったお金を盗み、借金返済のために両親が工面してくれたお金を使い果たし、妻とまだ小さい娘を残し、失踪したギャンブラーからでした。その救出に必死になって取り組みました。

役所や保健所に電話をしたけれど、あまり力になってくれなかった。
そして「良く話しあいなさい」と言われたと。

「僕が全部悪いんです。分かっているんですけど、
でも止められなかった・・・」と、泣きじゃくる彼。

既に入っていた予定をこなしながら、本人の説得だけでなく、奥様、実家のご両親、関係者に連絡を取りながら、なんとか打開策を見つけようと、必死に動き回りました。

こんなこと、日本の中で我々しかできないと、自負しています。
「あぁしたら?こう言ってみたら?ここに相談してみたら?」
そんなサジェスチョンじゃなく、どこかに行くなら一緒に行く、家族とは直接話す、判断力も思考力も失った、病気の一族のために、我々は、自分達が積極的に関わるのです。

つい先ほどまで、LINEで励まし、明日再び、打開策を模索します。
そんな時の願いはたった一つ「死なないで」。

ぐちゃぐちゃに絡まった家族の感情。そういった糸をほぐしながら、
何が皆の本当の望みなのか?
そのためには何をしたら良いのか?
誠実に家族ともども介入していくのです。

真剣勝負はへとへとに疲れます。
それでもなんとかしなくちゃならない。
今、これを何とかできるのは、私たちだけ・・・
いつだってその使命感を忘れたことはありません。そのために多くの時間と労力と自分のお金を使っているのです。

それでも、それだけ必死に関わっても、自死の魔の手からは逃れられない時もあるのが現実なんです。その悲しみや、苦しみを何度も味わって来ました。
あなたにそれがわかるでしょうか?

「自覚を持って、腹を割って話し合え。」
そんな進路相談のような、甘い対応で、魔法のように問題が解決すると思うあなたには、我々の戦場のことなど、知る由もないのでしょうね。

人生相談に想いを託したこのお母様が、絶望していないことを心から願っています。
そして私たちに電話を下さい。私たちなら、あなたの想いを受け止め、解決策を一緒に探し、行動を共にすることができるのです。

息子さんのギャンブル三昧は病気であって、あなたが悪い訳じゃないのです。

あなたは、息子さんを深く愛し、精一杯やってきました。私たちはあなたを想い祈り、共に悲しんでします。

私たちがここに居ることを、あなたにどうか気づいて欲しい。

もう一度言います。

あなたが悪いわけではないのです。
自分をもうこれ以上責めるのはやめにしましょう。
私たちは待っています。どうかここにたどり着いて・・・
田中紀子写真


編集部より:この記事は、一般社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表、田中紀子氏のブログ「in a family way」の2015年10月22日の記事「怒りの人生相談です」を転載しました(見出し、本文の一部をアゴラ編集部で改稿)。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「in a family way」をご覧ください。