1951年4月、前年6月に勃発した朝鮮戦争のさなか、韓国の李承晩大統領は韓国軍部隊への演説で次のように述べた。
最近国連軍の中に、日本軍兵が入っているとの噂があるが、その真否はどうであれ、万一、今後日本がわれわれを助けるという理由で、韓国に出兵するとしたら、われわれは共産軍と戦っている銃身を回して、日本軍と戦うことになる。
反日の「元祖」たる李承晩の面目躍如たる演説である。韓国は突然の北朝鮮軍の攻勢に当初、敗走に敗走を重ねた。李は多くの軍民を置き去りにして我先に逃げ出す有様。米軍の反撃により漸く北朝鮮軍を押し戻すことができた。李は一時は日本に亡命政府を置こうと日本政府に準備要請すらしていた。
米軍とて万全だったわけではない。北朝鮮軍は開戦直後から機雷戦を展開、これを応じられる国連軍掃海部隊はわずかで、機雷処理に手を焼いた。
そこで日本の海上保安庁に掃海部隊の派遣を要請。日本は犠牲者を出しながら46隻の掃海艇などにより、元山、仁川などの掃海作業で機雷27個を処分し、海運と近海漁業の安全、国連軍の制海権の確保に多大の貢献を果たした。
それは間接的ながら韓国にとっても、軍事的な援助となったのである。
冒頭の李承晩の発言は、その恩を忘れ、仇で返す物言いなのである。
このエピソードを思い出したのは、24日付けの日本経済新聞が「中谷元・防衛相の発言に韓国で反発が広がっている」という記事を掲載していたからだ。
中谷防衛相は20日の日韓防衛相会談で「韓国の支配が有効な範囲は休戦ライン(軍事境界線)の南側だ」と発言、「朝鮮半島有事の際には北朝鮮では韓国の同意がなくても自衛隊が活動しうる」という認識を示した。
これについて、韓国では野党中心に「韓国は北朝鮮地域も憲法で韓国領と規定している。日本の自衛隊が入ってくるには韓国の承認が必要だ」と反発、中谷氏に強く抗議しなかったとして韓民求(ハン・ミング)国防相に責任追及の矛先を向けている、というのである。
日本は北朝鮮が弾道ミサイルを日本に向けて発射しようとするなど、万一の時は自衛のためそのミサイル基地を攻撃しなければならない。韓国の同意をとっていては危急存亡時に間に合わない。
そもそも韓国が自国の憲法上、北朝鮮は韓国の領土だとしていようと、実質的に北朝鮮領を支配しているわけではない。だから、韓国の承認を求めても意味がない。中谷防衛相の発言は国際外国の常識に照らしても至極最もなのである。
実力もないのに、自分は実力があると思い込み、承認を求めろと言う。まともな国際常識がない点で、李承晩時代と同じである。
韓国も朴正煕大統領の時代は立派で、日本の経済協力の漢江の奇跡と呼ばれる高度成長を実現、その後も日本との協力関係が続いた。だが、リベラル派の金大中、盧武鉉政権を境にどんどん反日的となり、今や完全に李承晩時代に戻り、さらに中国への傾斜を強まり、野党中心に親北朝鮮的な政治家が急増している。
こうした国家とは距離をとり、経済をはじめ日本の国益にも資する是々非々の協力は惜しまないものの、日本の自衛、安全保障を脅かす要求は冷静に拒絶することが肝腎である。その点、中谷防衛相の姿勢は正しい。
対立を嫌い、すぐに譲歩しようとする外務官僚が変な妥協策をとることが気がかりだが、安倍晋三首相はそんな注文をはねつけ、ぶれることがないと信じている。
井本 省吾