都市間競争の時代 『東京一極集中が日本を救う』

市川 宏雄
ディスカヴァー・トゥエンティワン
★★★☆☆



日本の最大の問題は安保でも憲法でもなく、戦後続いてきた成長が終わり、人口減少と超高齢化が進行することだ。その影響は今はゆるやかにしか見えないが、「GDP600兆円」などと高度成長の夢をみて財政支出を膨張させ続けると、将来世代の負担は激増する。

国土の構造も大きく変わる。「東京一極集中」は、よくも悪くも避けられない。都市集中がよくないとされたのは人口成長時代の話で、これからは減少する人口を都市に集めてインフラ投資を効率化する必要がある。一時騒がれた「地方消滅」は、実際には「地方自治体消滅」であり、防ぐことはできないし防ぐべきでもない。

むしろ恐れるべきなのは、東京が都市間競争に敗れることだ。東京圏の経済力はまだ世界一だが、シンガポールなどアジアの都市が追い上げている。世界の企業がアジアの拠点を東京に置くかどうかは、日本経済全体に影響する。拠点の流出は始まっており、これを止めるためには東京を「特区」として自由化し、重点的にインフラ投資する必要がある。

東京集中で問題になるのは、都市の高齢化とスラム化が進むことだ。これを防ぐには、年金や医療などのコストを削減し、老人のための安価な賃貸住宅を大量に建設するなど、発想の転換が必要だ。都市で集めた税金を(人のいなくなる)地方に再分配する公共事業を続けていると、都市も地方もだめになる。

ただ本書の「東京オリンピックの経済効果」を強調し、「リニア新幹線で名古屋が東京のベッドタウンになる」などという話も、成長時代のバラマキの発想だ。これからは肥大化した政府を縮小し、財政や社会保障の考え方を根本的に変える必要がある。