「マンション傾斜」を立て直す

一昨日の23時過ぎ、「北海道発注工事で旭化成建材がデータ流用、釧路の道営住宅」という速報があって、所謂「横浜傾きマンション事件」発覚以後初となる別物件でのデータ流用が明らかとなりました。


そして昨日は、上記「28日に判明した案件と同じ社員が担当していた」別の道営住宅工事でも新たなデータ流用が確認され、また驚くべきは別担当者による「横浜市の中学校でデータ改ざんが見つか」ったのであります。

次々発覚する此の不正行為には現況、「少なくとも3人の現場責任者が関与していたことも明らかになり、改ざんが、社内で常態化していた疑いが強まって」います。当件を巡り連日見せる問題の広がり・根深さをニュース等で知るにつけ、「よくもまぁこんないい加減なことが出来たもんだなぁ」と開いた口が塞がりません。

私自身これまで、幾つかの新築マンションを借り換えて転々としてきた身であります。その経験を振り返ってみても取り分け近年、入居後に売り主のパンフレットの中で謳われていた「安全性」「快適性」の類に掛け離れた実態もありました。

例えば鴬張りの床を注文したものでないにも拘らず、歩いているとキュッキュキュッキュと音を出すような箇所があったりもしました。それは勿論、今回の三井不動産や旭化成等による施工不良と比べたらば、ましであるとは思います。

しかし実際その問題の本質は、同じではないかと考えています。内装面の手抜きにつき更に例示するならば、戸棚の扉を合わせると5mm以上の隙間が空いていて、中が見えるなど嘗ては有り得なかった話です。

日本の伝統的なものづくりというのは、あらゆる事柄に拘って極めて丁寧な仕事をしており、何cm何mmは当たり前で更にmmの何分の一までという位、何であっても細部に拘って厳密に作られていました。こうした完全性や潔癖性を求める日本人のものづくりに対する姿勢そのものが段々と薄らいでき、そのクオリティは今確かに劣化の一途を辿っているよう思われます。

一年前に発行されたある機関誌のインタビュー記事で、私は次の通り述べたことがあります--中国で新しい工場の開設式典に出席すると、工場のあちらこちらに隙間があり、コンクリートには罅(ひび)が入っているのが見られますが、それが中国では当たり前です。日本人が建てたものにはそういうものはありませんでした。しかし、最近、日本のマンションでも建物を支える杭が支持層まで達しておらず傾きだしたとか、配管用の貫通孔を作っていなかったとか、大手建設会社や大手デベロッパーの手がけた物件でこのような事態が起きたことを見ると、少しおかしくなってきたのかなと思います。

これ即ち、昨年6月熊谷組が施工した「パークスクエア三ツ沢公園」で、やはり「杭が支持層(地中にある固い地盤)に届いていなかったことが発覚。さらに、その半年前には、三菱地所グループと鹿島がタッグを組んだ南青山の億ションで、ずさんな配管工事が行われていることが、完成間近になって内部告発によって明らかになった」こと等を指し示した話です。

昔の日本人はきちっとしていて、一寸の狂いも許さぬ技術を身に付けたものです。例えば日本のデパートで買い物をした場合も、普通であれば袋へぱっと入れて御仕舞なものを綺麗に包装し、その上リボンまで掛けるといった具合に見た目が非常に良く施されています。之につき、一つは日本人の素晴らしい感性の表れであろうと思われ、外国人などはよく“It’s neat.”というふうに言い、そうしたことを評価したりもするわけです。

此のグローバル時代では、日本人は日本人の持つ世界に冠たる感性を様々な側面で活かして行く必要がありましょう。オリンピック誘致では「おもてなし」をアピールしましたが、武道における「礼に始まり、礼に終わる」という精神等も含め、今正に日本人がその特質を世界に見せるタイミングだと思います。

昨今日本の建設業界にあっては、人手不足に困り果てて中国人を安易に雇いパパッと現場監督などを任せているのでは?というレベルの欠陥マンションが多数生み出されている状況です。日本人の一つの民族性とも言えるものが段々と失われてきているのではないか、東京オリンピックを前にそういう傾向が益々強くなってきているのではないか、と私は現況を非常に懸念し始めています。

当該観点より述べるならば「くいデータ改ざん問題」の背景につき「建設現場の空洞化がある」として、ある大学教授は次のように指摘しています--大手のゼネコン(総合建設会社)が元請けの場合でも、現場監督を務める技術系の正社員はごくわずか。マンション建設など仮に現場監督が20人いたらゼネコンの正社員は5~6人で、あとは派遣社員という例もある。人手不足に加え、外注を進めてきた結果だ。

今回とりわけ事件発覚当初は、三井不動産が余り全面に出て来ることなく、色々な意味で旭化成建材ばかりが矢面に立たされていたよう見受けられました。御承知のように、傾斜「問題のマンションは2006年に、デベロッパーの三井不動産レジデンシャルが販売を開始し、07年12月に完成しました。建設工事では三井住友建設が元請けとなり、日立ハイテクノロジーズが1次下請けとして工事の進捗状況などを管理。杭打ち工事は2次下請けの旭化成建材(親会社は旭化成)が担当」したものです。

最近漸く夫々の親会社である三井不動産および旭化成が表に出てくるようなりましたが、何故もっと早くそうならなかったのかと不思議に思います。例えばメーカーは法律で厳格な製造者責任が負わされていますが、不幸にも此の不動産の関連業界はその限りではないようです。

鴬張りの床にしてしまおうがその内装面にどれ程の欠陥があろうが、それを売り捌いて後は契約書や法律を事ある毎に振り翳し「免責の中に入っています」と、ある意味開き直るといった有様です。他方その偽装マンションのパンフレットには実態とは対照的に、何もかもがほぼ完璧であるが如く、如何に素晴らしい物件かと滔々と虚偽情報を記載しているのです。

之は「この株は必ず儲かる」と滔々と謳っているのと同じ類で、金融商品の場合であればそのような売り方をして訴訟になれば、一発でアウトになる話です。しかし不動産の場合あの「パークシティLaLa横浜」ですらも倒れ掛けであるにも拘らず、そのパンフレットで滔々と書かれていたのは、どれ程それが立派かという内容であるわけです。

昨日掲載された日本経済新聞の読者アンケートの結果を見ても「横浜市のマンション傾斜問題における責任はどこにあると思いますか」との問いに対し、「ピラミッド型の建設業界で頂点に立つ住宅販売会社の責任は重い」としてデベロッパーとの答えが62.5%を占めています(参考:下請け会社24.2%、行政のチェック体制5.3%)。

売り主として散々美談を書き連ね結果あれだけ堂々と顧客を欺いているのですから、今回の件で言うなれば私も三井不動産レジデンシャルの責任が最も重大だと考えており徹底追及すべきだと思っています。

一昨日午後、横浜市長の林文子氏が石井啓一国交相に対して「技術的な支援と適切な情報提供を求めたほか、再発防止に向けて適正な検査や報告が行われていたかを調査し、建設業法や建築基準法などの法令についても検証するよう」緊急要請されたとの報道もありました。

問題含みの業界側が「再発防止のため、工程管理やデータの記録方法などチェック体制強化の指針づくり」を行うのは当然です。但し寧ろそれよりも、監督官庁である国土交通省が当該業界の暗部にもっと鋭いメスを入れ抜本的に立て直そうとして行かねば、何れまた「耐震偽装」等々の形で住民多数の悲劇に繋がって行くのではと今回つくづく感じました。

今後は今週火曜日、石井国土交通相によりその設置が正式表明された再発防止策検討の有識者委員会を舞台として、「旭化成が設置した外部調査委員会の原因究明の状況を踏まえながら検討を進める」ようで「初会合を来週にも開催し、年内に中間報告をまとめる」とのことです。

最後にもう一つ横浜の傾きマンションを巡って、明日「31日から2日間の予定で開催する住民説明会で補償交渉が本格的に始ま」ります。先日三井不動産レジデンシャルが示した補償内容は、これから後調査が進められる傾いた西棟以外の3棟含め全4棟の建て替えを前提条件とし、①「売却を希望する住民には建て替え後の新築マンションとしての分譲価格で買い取る」、②「建て替えで仮住まいを強いる場合、周辺の賃貸相場に上乗せして家賃や引っ越し代などの費用を負担する」、③「慰謝料は全世帯に支払う(具体額は現時点で明示していない)」といったもののようです。

しかしながら此の前提条件で言うと、「建て替えを行う場合は、世帯主など区分所有者の5分の4以上の同意が必要」で「仮に管理組合で5分の4以上の同意が得られたとしても、反対派の住民が納得せず実際には建て替えが進まない例は多い」のが実情です。

私が思うに今回これだけ擦った揉んだしたわけですから、前提条件としての全4棟建て替え云々でなしに最良の解決策は、先ず以て関係各社が少なくとも購入価格プラスアルファで買い戻すということです。

勿論、「パークシティLaLa横浜」に対し住民が支払った「引っ越し代」「住宅ローン金利」「登記などの初期費用」も含めてです。更に、その間平均の不動産評価額の値上がり分(三井不動産レジデンシャル取扱い物件)および固定資産税等の税額等々のプラスアルファも乗っける形で、関係各社がその全てに至るまでをきちっと補償すべきでしょう。之は、各社夫々がその責任の重さをちゃんと認識すべき大問題だからです。

ある弁護士いわく「全4棟を建て替える場合は合意形成だけで数年かかるだろう」ということですが、私が見るに「5分の4以上の同意」など得ることは出来ず、仮に得たとしても上記した反対住民の存在に加え「他の補償を巡り意見が割れる可能性も否定」出来ず、また更には5分の3程度の同意を得たとして幽霊屋敷の如き傾きマンションであったらば、結局のところ皆出て行くようならざるを得ないのではないでしょうか。

何れにしろその負担割合は別にしろ、関係各社は早急に十二分な補償を被害者に行わねばなりません。兎に角まずは上記の通り、無条件での転出チャンスを建て直し希望者に対して与えるべきで、それこそが住民の納得に繋がり得る補償ではないかと思います。

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