感慨深い郵政民営化

岡本 裕明

1987年2月10日に熱狂的な人気と共に上場したNTT。それは本格的バブル時代の幕開けを占うものでありました。上場時に株を買えなかった人たちはまるで宝くじに群がる人のごとく、NTTを求め、初値は売り出し価格より40万円高い160万円、そして騰勢を維持したまま、3月4日には301万円をつけます。新聞はトップで同社の株価を取り上げ、正に国民的関心を煽ったのでありました。

そのNTT株は民営化したNTTグループ、JRグループ、およびJT(日本たばこ)と比べて株価上昇率が唯一マイナスの銘柄であります。ドコモも一時は4倍近くまでいったもののその後、マイナスまで落ち込み、現在でも上昇率は極めて低いところに放置されています。

日本郵政グループが11月4日に上場するにあたり、あの時の熱狂こそ感じられないのですが、前人気は高いとされ、安定的な株価が見込まれます。ではお前は買うのか、と言われれば「買わない」の即答でありますが。

日本郵便を所有する日本郵政はゆうちょとかんぽからの郵便局の窓口業務代行手数料を郵便事業の赤字補てんとする仕組みになっています。つまり、日本全国24000を超える郵便局とその局員をインフラとして様々なビジネスを行っている日本の基盤そのものであります。

先日、山形県のある地方都市に出掛けたのですが、人もあまり歩いていない田舎町に郵便局があちらこちらにあり、ある意味、田舎ではコンビニより存在感があることを改めて感じさせました。そのビジネス基盤は確かに誰も追いつけない重みすらありますが、郵便局に行く人はその目的が限られるという点に於いて効率の問題は当然上がってくるでしょう。

郵便局長さんは信頼できる人で田舎では駐在さん(おまわりさん)と同等の社会的地位があると言っても過言ではないでしょう。それは一つの価値ですから民間が大好きなリストラをせず、その持てるインフラをどう生かしていったらよいか考えたらよいでしょう。

民営化した企業の中で株価的に最も成功しているのはJR東海ですが、それは持てる資産をうまく生かしていったことがポイントでした。駅という人が集積するところに電車に乗るだけではなく、不動産事業をし、物販をすることで多大なる収益を上げました。

もう一つの成功例はJT(日本たばこ)でしょう。こちらは海外のたばこ会社を次々と買収し、企業の国際化を図っていきました。こちらも持てる能力にレバレッジをかけたという意味で高く評価できるかと思います。

今、郵政の株に興味があるとすればゆうちょ銀行で3.4%程度の利回りとなり、同業のメガバンクよりも高くなっている点でしょうか?潰れる心配がない企業がこの低金利下でこれだけの利回りを提供してくれるなら、株価のリスク含みがあるとはいえ、機関投資家などがこぞって購入したくなる理由は分かる気がします。

また、日本郵政についても黙っていても年間1兆円近い業務委託料が入ることは赤字の底が知れているともいえます。一方、弱みはその1兆円の収入故に郵便事業を改善しようとする意志に欠けることでしょう。

今回の3社はどれも立派な会社ですし、投資対象として悪くはないのでしょうけれど私にはどきどきさせるものが感じられません。成長させたいのか、安定させたいのか、経営方針も野心もまだ何も見えません。政府に遠慮しているのだろうと思います。その点に於いてこれら3つの会社がもっと民間との競争で切磋琢磨するには相当時間がかかるのでしょう。10年以上は覚悟です。そこが私がこれらの株に興味がない点でもあります。

日経に面白い記事が出ていました。今は80年代後半のバブル前夜時期とそっくり同じだと。冒頭NTT上場を回顧した今回の郵政上場もそうですし、先日のチャイナショックはブラックマンディと重なるそうです。株価チャートもお見事に重なっています。となれば、戦艦ジャパンはまだまだ驀進できる余力があるということなのでしょうか?

小泉さんの時から始まったこのドタバタもようやく区切りになるという意味でも感慨深いものがあります。

では、今日はこのあたりで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 11月2日付より