地方で働くことの優位性

尾藤克之氏が、地方に就職することについていくつか記事を書かれている。

それに対して、実際に東京から地方の企業にUターン就職した私の経験から、思うことをいくつか書きたい。


尾藤氏のお話は、結局何を言いたいのかがわからなくて、個人的にはストレスがたまる。地方で働くことを推奨しているのか、そうでないのか。別にそこをクリアにする必要はないのだが、何か読んでいてモヤモヤが晴れない。

ここでは、私なりに考える、「地方で働いた方がいい人」「東京で働くべき人」について書きたい。多分、尾藤氏もそこを踏まえて、「でも地方で働いて欲しいんだよね」って感じなんだと推測しているのだが。

まず、「地方から東京で一旗上げたい」と思う人を地方に踏みとどまらせるべきなのか。尾藤氏の「●東京で成功するためには」という話を読むと、「東京に出る前に、ちょっと考え直した方がいいんじゃない?」という雰囲気を感じる。

私は、出たいなら出た方がいいと思う。特に若いうちは、それ位の勢いがあった方がいいし、いろんな経験を踏んだ方が人間的にも成長する。出生地と東京、という観点だけでなく、自分が生まれ育った場所以外で生活することにより、得られることは多い。だから、後先考えずに、とりあえず東京に出ることは推奨したい。

問題は、実際に東京に出た後で、やっぱり地元に戻りたいと思った時に、地元に戻れる環境があるかどうかである。現実にはいろんな意味でそこが難しいことが多い。それを地方の側が改善する努力は必要だ。

次に、「地方はどの会社もゆったりしていて働きやすいに違いない」のか。実際にUターンを経験した私から言わせると、「全くそういうことは無い」のだ。

これは企業により地方により、差があることは間違いない。長崎県の場合は、数年前に1人あたり県民所得は最下位なのに、平均労働時間は日本一長いということで問題になったことがあるほど、労働環境は悪い。今でも土曜日が休みでない企業は普通に存在する。これが現実だ。

実際に、私が東京の企業に就職していた時に、長崎県へのUターン経験者と話をすると、遠回しに「やめた方がいい」と言われたし、実際にUターン就職した企業でも、Uターン経験者の先輩達に「あんまりいいことはないよ」という感じのことを言われた。

先に「地元に戻れる環境があるか」と書いた話に関連するが、まず労働環境の悪さでUターンを思いとどまり、実際にUターンしても、思った以上の労働環境の悪さが嫌になって、また東京に戻る、という人も、何人も目にしている。こんなことを書いていると、「長崎県にU/Iターンをするのはやめた方がいい」と言っているようだが、実際そう思っているので仕方がない(苦笑)。

じゃあ長崎で働く価値がないのか、というと、そうでもないので、私も長崎に住み続けている。

長崎固有の話をしてもしょうがないので、後は一般論にする。

では地方で働く意味はないのか。人によるとしか言えないが、意味のある人も多いはずだ。

地方は給料は安いが生活費が安く住むので、実際は収入以上に豊かな暮らしができる、という側面は間違いなくある。ではどういう人が地方に住んだ方がいいのか。

それは、たまたま東京生まれなだけで、東京で生活する必然性が他にない人である。東京に住んでいるけど銀座とか渋谷とかにはほとんど行くことがない人は多い。週末にイオンモールに行ければ生活には困らない、という東京在住者は、結構多いのだ。こういう人は、地方で生活するきっかけがないから、東京に住み続けているだけなのである。

ある意味、「地方企業の待遇の悪さが嫌になり東京に戻る人」は、元々東京に住むべき人であり、そこは気にならないけど、きっかけがないから東京に住み続けている人は、地方に移った方が豊かな暮らしができるのだ。

東京に住みたい人にとっても、東京に住む必然性がない人が地方に移住してくれれば、東京の過密が解消されて住みやすくなる。東京から地方へ移住しやすい環境ができることは、悪いことではないのだ。

前田 陽次郎
長崎総合科学大学非常勤講師