日本人の平均寿命は長い。2013年で見ると、男性80.21歳、女性86.61歳と世界トップクラスの長寿である。だが、「死ぬ前日まで元気いっぱいだった」という人はそれほど多くない。
「健康寿命」という用語がある。死亡するまでが寿命だが、健康寿命は介護を受けたり寝たきりにならず、自立した日常生活ができる期間を指す。最近、これが意外に短いことを知った。
厚生労働省によると、日本人の2013年の健康寿命は男性で71.19歳だ。平均寿命との差は9.02歳もある。女性は74.21歳で平均寿命との差は12.4歳も開く。
還暦の60歳を過ぎれば腰痛とか心臓病とか、多くの人はどこに持病を抱えているものだが、介護を受けねばならないほどに体力や知力(認知症など)が衰える時期も意外に早いのだ。
日本人の中で突出して人口が多い段階の世代も今や66-68歳(広義には65-69歳)と、すべて前期高齢者の仲間入り。私もその一人だ。男性の場合、平均寿命が80歳ということから「人生80年、死ぬまでまだ10年以上ある。仕事の整理をしたり、遺書を用意するなど死の準備をするのはまだ先のこと」とあまり考えていない人が多いのではないか。
だが、健康寿命が74歳の女性はともかく71歳の男性はそれほど先のこととは言えないと思った方がいい。団塊の世代なら健康寿命まで3-5年(広義では2-6年)しかない。介護という人の世話にならない年齢はすぐそこに迫っている。
命短し、団塊の世代。自らの状況をしっかりと認識すべしと、私は今、自らに言い聞かせている。
その思いで書棚にあった文芸春秋2008年2月月号の特集「見事な死」を開くと、日本を代表する作詞家にして小説家でもあった阿久悠氏は2001年(平成13年)に64歳で腎臓癌の摘出手術を受けた。それ以後は癌治療を受けつつ、病身を押して活動を続けていたが、2007年8月、尿管癌のため70歳6ヶ月で他界した。
死去した2007年も、4月から「言いたいことがまだたくさんある。それを肉声で伝えたい」とラジオ放送に出演した。収録の日は人工透析の後でスタジオに訪れるので、ぐったりして声はかすれ、顔も土気色だった。だが、放送が終わる頃には元気になって、何も喉に通らないと嘆いていたのに、収録後はサンドイッチをつまむほどだったという(同ラジオ放送を共にしたNHKアナウンサー、葛西聖司氏の記事)。
自分の望むことをすると、それほど気力、体力を回復するということだろう。癌の手術をした2001年から約6年も生き延びたのも、好きな仕事で充実した時をすごす機会が多かったからかも知れない。
何で残された時を過ごすかは人それぞれ。好きな趣味や旅行、家族との団らんを大事にする生き方もある。「命短し、恋せよ乙女」ではないが、バツイチやバツニの身が素敵な異性との交際に心をときめかすのも結構だ。
いずれにせよ、前期高齢者の仲間入りしたら、(平均的には)健康でいられる時間はそれほど長くない、ということは認識しておいた方がいいようだ。