ローマ・カトリック教会の総本山バチカン法王庁の司法当局は2日、バチカン関係者の2人を機密文書を盗み、漏えいした容疑で逮捕したと発表した。
▲雨が降る中のサンピエトロ広場の復活祭(オーストリア国営放送の中継から、2015年4月5日、撮影)
バチカン放送独語電子版によれば、一人はスペイン教会神父のルシオ・アンヘル・バジェホ・バルダ神父(54)だ。もう1人はイタリア・モロッコ出身のソーシャル・メディア専門家のフランチェスカ・シャウキ女史(33)だ。2人は解散されたバチカン経済部門機構改革委員会(COSEA)に従事していた。
バルダ神父は法王庁諸行政部門およびその財務を管理する「聖座財務部」の次長だ。同神父はカトリック教会の根本主義グループ「オプス・デイ」(神の業)と繋がりがある。シャウキ女史は既に釈放されたという。調査に協力を表明したからという。
イタリアのメディアによると、バルダ神父は暴露本の著者2人のジャーナリストに機密文書を手渡したという。流失した情報には、タルチジオ・ベルトーネ枢機卿(前国務長官)の腐敗(巨額な住居費など)、宗教事業協会(バチカン銀行、IOR)の疑惑口座、バチカンが運営する小児病院「バンビーノ・ジェズ」の不正運営などが含まれているという。
2人のジャーナリストは近日中に新著を出版する。バチカン側は「信頼への裏切り行為だ」としてバルダ神父を厳しく批判するとともに、「バチカンに大きなダメージが生じる」と危惧する声が聞かれるという。
バチカンでは前法王べネディクト16世在位中の2012年、機密文書の流出事件(通称Vatileaks、バチリークス)が生じたことがある。法王の執事(当時)パオロ・ガブリエレ被告(当時46)がべネディクト16世の執務室や法王の私設秘書、ゲオルグ・ゲンスヴァイン氏の部屋から法王宛の個人書簡や内部文書などを盗み出し、今回の事件にも関与した暴露ジャーナリスト Gianluigi Nuzzi 氏に流した事件だ。
ガブリエレ被告(当時46)は2012年10月6日、窃盗罪として禁固1年半の有罪判決を受けたが、べネディクト16世は判決後、ガブリエレ氏に恩赦を与えている。
当方は当時、「第2のガブリエレが現れる日」(2012年10月9日参考)というタイトルのコラムを書いた。あれから3年後、第2のガブリエレが現れたのだ。今回は法王執事ではなく、バチカン聖座財務部のナンバー2(次長)だ。イタリアのメディアは今回の機密文書の窃盗・漏えい事件を“第2のバチリークス”と呼んでいる。
新著の著者Nuzzi氏は3日、新書について、「フランシスコ法王のバチカン刷新が困難な道であることを明らかにした。バチカン内で腐敗、汚職、不正なビジネス、特権乱用などがいかに頻繁に行われているかを理解できるだろう」と述べている。
バチカンは昔から「秘密の宝庫」といわれてきた。その宝物(機密情報)を見つけ出すために多くのジャーナリストが蠢(うごめ)く一方、バチカンは必死にその機密を守るために腐心してきた。南米出身のローマ法王フランシスコが登場し、バチカン機構の刷新に乗り出して以来、その宝物を必死にも守ろうとする一部の高官(枢機卿を含む)と改革派聖職者の間で情報戦が激化してきている。バチカンでは今後、“第3、第4のガブリエレ”が出てきても決して不思議ではないだろう。
なお、第2バチリークスとの関係は不明だが、バチカン市国のリベロ・ミローヌ監視長官(Libero Milone)のコンピューターがハッカー攻撃を受けた事件で、バチカン司法当局は捜査を開始している。同氏は今年6月、フランシスコ法王によってバチカンの経済部門、金融部門の機構刷新のために任命された人物だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年11月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。