イエレン議長の本気度

イエレン議長が下院金融サービス委員会の公聴会で12月の利上げの可能性に言及、他のFRB(連邦準備理事会)のメンバーも同様の発言を行ったために急速に12月利上げ説のオッズが上昇してきました。アメリカの本気度を考えてみたいと思います。

FRBは労働市場の改善ペースはやや減速したものの十分な改善水準にあり、今後もその傾向は続くとみているようでフィッシャー副議長が発言しているように「原油価格の回復とドル高が一服すれば」インフレ傾向も改善(つまり上昇)できるバイアスがかかると判断しているようです。

昨日あたりに市場で噂されていたのは「これは口先介入ではないか」というものでした。以前にも指摘しました通りFRBの意図に反して市場の利上げ予想時期は2016年3月から6月というものが増えています。FRBの利上げ警告に対して市場の勝手な憶測と安心感を戒める為の発言、というのがもっともらしい解説でありました。

つまり、12月利上げのオッズが上がれば緊張感が増すのでそれでFRBは一定の満足感が出るのではないか、というのです。事実、イエレン議長の「12月大いに本気説」で利上げのオッズは10ポイント上昇し、6割の確率となっています。もっともこのオッズそのものが何を意味しているのか、といえば専門家の賭け事のようなものでこれに振り回されず、少し冷静に判断をする必要がありそうです。

個人的には12月の利上げがない、とは言い切れない気がしています。というより、利上げに踏み切る二度目のチャンス到来であるとした方がよいでしょう。

一度目のチャンスは9月でした。この時、想定外のチャイナショックで市場が荒れ、FRBは防戦側に立たざるを得ませんでした。「あの時は本来であれば、絶妙のタイミングだった」という声は当時漏れ聞こえていました。FRBの政策会合は年8回程度ありますがうち、会合の後、議長会見があるのは4回しかありません。9月の次は12月、その次は来年3月となってしまいます。通常、政策の変更を伴う場合、議長会見がある会合となるケースが多く、そのために10月利上げの線はもともと可能性が低かったのです。

では、FRBにとって利上げが2016年にまで先送りされると何が困るか、でありますが、二つあるかと思います。一つは大統領選挙の予備選が始まるため、大きな金融政策の変動を起こしにくいことが挙げられます。特に来年3月はスーパーチューズディもあるため、米国内は大統領選一色になる可能性があります。そして、7月には両党の候補者が一本化されるスケジュール観ですからやりにくさが一層増してくることになります。

もう一つの懸念は2016年の景気観測が十分高いレベルで維持されるか微妙な点であります。来年に米国景気が下向きに転じると見る比率が高まっているとされ、仮にそうなれば利上げのタイミングがやはり取りにくくなるだろう、というものです。

そう考えると是が非でも12月に利上げというステップに踏み込みたいのですが、今のところ、その環境は悪くない気がします。まず、雇用統計ですが、12月4日に発表される11月度の雇用統計は通常、良好なはずです。これは感謝祭前のショッピングからクリスマスショッピングという消費者にとって二大イベントが重なるため、多くの小売業者は雇用を増やし、また宅配などの体制を整えます。つまり、一種の季節要因として雇用が通常月より良好になりやすいのです。

二点目に夏のチャイナショックは当面収まる気配がある点です。中国は既に迎える5年間は6.5%成長を固持するとしていますから中国式統計のマジックで6.5%前後の数字が出てくる「上っ面の安定感」が期待できます。中国株式も上昇に転じており、昨日あたりで上海総合は3500ポイントを超えており、今のところ、再び荒れ狂う兆候はありません。

唯一気になるのはインフレ率であります。実は昨日、イギリス中央銀行が定例の政策会議を行いましたが一部で期待されていた引き締めは8対1で否決され、現状維持となっています。特にインフレ率見込みを下方修正し、「2年以内に2%」を「2年前後で2%」に修正しています。どこかでかつて聞いたような文言と同じであります。また欧州委員会もユーロ圏のインフレ率見込みについて2016年を1.5%から1.0%に下方修正しています。

よってアメリカだけインフレ傾向になると予想するのは無理があるのですが、あえて2%のインフレ目標に目をつむり、原油価格が回復基調にあり、インフレ率も改善傾向にあることで利上げに踏み込んでしまうことはなくはないでしょう。むしろ例えば自動車販売のように過熱感が高く、自動車ローンの金利を引き上げ、熱さましをさせる必要があると判断しないこともないでしょう。

個人的にはいつまでもぐずぐずしているより一旦利上げして今の中途半端な市場マインドを払しょくした方がよい気がします。明日は10月の雇用統計がでますのでそのあたりのフォローアップは明日のブログでお伝えしたいと思います。

では、今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 11月6日付より