4日の経済財政諮問会議に提出された民間議員の資料がちょっと話題になっている。それによれば「名目GDP600兆円」という安倍政権の目標は「2020年度ごろ」に達成可能だというのだが、その内訳は次の図の通りだ。
まずGDPデフレーターが5年間で50兆円(10%)も上がることになっている。GDPデフレーターというのは、おおむね物価上昇率(CPIに設備投資などを加えたもの)と考えていいが、ここ15年の平均では図のように年率-1.1%で、日銀は物価見通しを大幅に下方修正した。それが今年から突然、毎年2%ずつ上昇するのは、どういう根拠があるのだろうか。
GDPデフレーター(出所:内閣府 2016年以降は期待)
次に潜在成長率が2%に上昇することになっているが、今年4~6月期の成長率は、内閣府の速報によれば、年率0.1%である。潜在成長率は同じ諮問会議に提出された日銀の黒田総裁の資料に出ているが、最近はほぼゼロに近い。特に2010年代から団塊の世代の引退で労働人口が毎年1%以上も減っているため、プラスを維持するのがやっとだ。それがいきなり2%にジャンプすることも考えられない。
この4人の民間議員の中でマクロ経済学者は伊藤元重氏だけだが、彼はまさかこんな手品を信じているわけではあるまい。「交易条件が改善する」とか「TPPで輸出が増える」とかもっともらしい理由が書かれているが、その程度のことでこんな驚異的な成長が実現すると本気で思っているのだろうか。
黒田総裁は「ピーターパンは飛べるかどうか疑った瞬間に永遠に飛べなくなってしまう」という名言を吐いたが、逆は必ずしも真ではない。いくら飛べると思っても、飛ぶ能力がない限り、人間が空を飛ぶことはできないのだ。
大事なのは空を飛ぶ夢を見ることではなく、ゼロ成長になっても維持できるように財政や社会保障を改革することだ。そのためには、こういう「成長ですべてが解決する」という夢物語は有害無益である。