中国の台湾接近が物語るもの

習近平国家主席と台湾の馬英九総統がシンガポールで会談しました。1949年の分断以降初の顔合わせですから歴史的会談だったと言ってもよいでしょう。しかし、この会談は中国側からのアプローチであり、その成功は中国側に利するものが多いことになりそうです。

もともとこの首脳会談は急遽決定されたのですが、閣僚級の会談は2014年2月ごろからスタートしており、その下地作りはなされていたため、あとはいつ行うか、というところでありました。その矢先、いくつかの条件が揃った、というのが今回のシンガポールでの会合だったと考えられます。

一つは台湾が来年1月に総選挙を予定しており、その際、政権交代が見込まれています。馬総統は中国寄りですが、仮に下馬評の通り民進党が政権をとれば中台の距離は再び広がる可能性があります。残された時間は限られていた、これが一つあるかと思います。

もう一つは習近平国家主席とオバマ大統領の会談が実質失敗となり、南沙諸島問題ではオバマ大統領がアメリカ海軍派遣を了承するなど緊迫関係を作り上げました。

中国海軍は太平洋へのルート確保に躍起となっているのですが、日本から尖閣、台湾、フィリピン、南沙というラインの突破口を常に考えてきました。尖閣では日中問題に発展し、中国に不利益が生じました。フィリピンへは今でも苛めていますが、アメリカがフィリピン側につくなどやりにくさが出てきています。そこでベトナムに近い南沙の埋め立てをしたところ、今度はアメリカ海軍がやってくるわけです。こうなれば台湾は将来的に極めて重要な戦略地域になる、こう考えたとしてもおかしくないはずです。

一方、台湾の人はかつての中国本土ブームから少し冷めてきているように見え、それが選挙での政権交代の可能性を示しているのでしょう。台湾の巨大企業、鴻海精密工業は中国本土に依存する体質を少しづつ変える方針を打ち出していますが、かつての台湾企業の優位性は中国企業の躍進により薄れてきている点も台湾が必ずしも中国に同調できない一つの理由なのかもしれません。

よって、今回の会談は象徴的なものではあるものの早速何かが変わる、ということはない気がします。首脳会談まで66年かかったわけですから関係改善にはまだまだ相当のハードルが残されています。それは人々のマインド(意識)がそう簡単には変わらないという意味もあります。人が持つイメージは時間がたてばたつほど凝り固まるものであり、極端な話、2-3世代経ないと世の中の常識観は変化しません。

ましてや民進党が政権をとれば再び長期間、中国とは距離感が出来、習近平国家主席の任期内には馬政権である中国国民党に再び政権交代はしないかもしれないリスクもあります。よって、一部の報道の様に今回の首脳会談において台湾側のメリットとはむしろ馬英九総統の個人プレー的意味合いがないとも言えません。

ポイントは台湾の選挙後、仮に民進党となれば蔡英文氏がどのような政策をとるのか、また、国民感情がどのように変化するのか、中台の経済関係など急速に変わりゆく世界情勢と共に判断材料は流動的となります。一番気をつけなくていけないのは万が一、台湾が将来、経済不振に陥った際、誰が救うのか、という点に於いて中国がその手を差し伸べるような事態になれば切れない関係となることはあるのでしょう。

このあたりを考え合わせると今回の首脳会談は象徴的であると同時に両者に将来を占う新たなるエレメントができた、ということでしょうか?当面は1月の選挙動向と台湾の人の反応に注目かと思います。

では今日はこのあたりで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 11月8日付より