「十三億分の一の男」の続き
「新四人組」の用語は、この本にはないが中国では広く使われている。
ドラマのはじまりは薄煕来の部下王立軍のアメリカの成都領事館駆け込み事件であった。王立軍は薄煕来の命令で党最高幹部の電話を盗聴していたが、実は上司である薄煕来の電話も盗聴していた。それによって習近平は、自らを引きずり下ろし、薄煕来をトップに据えようとするクーデター計画を知ることになる。四人の汚職等の罪状は勿論冤罪ではないだろうが、このクーデター計画がなかったらあれほど重罪に問われることはなかったかもしれない。
徐才厚は、230万人を擁する人民解放軍の制服組トップ、周永康は200万人の武装警察を動かせるポストにあったので、クーデター成功の可能性は低くなかったはずだ。この四人は密接な人的つながりがあったし数えきれないほどのスキャンダルを抱えていたので何もしなければ、粛清されるとの危機感を共有していた、
薄煕来
重慶市書記。元々太子党であり習近平とは幼なじみであったが、薄は、習近平は能力がないとみて軽んじるところがあった。大連近郊に薄煕来の別荘があり、多くの党政府の高官とその子弟が招待されたが、習近平は一度も招待されなかった。
出世レースでも薄煕来が先行していたが、薄熙来が2001年遼寧省長になり翌2002年習が浙江省書記になった時逆転した(省長より書記が上位)。
習近平の躍進は続く。2007年胡錦濤は、江沢民の意中の後継者上海市書記陳良宇を汚職で排除することに成功する。後任に胡錦濤は自分に近いものを据えたかったが、江沢民が強く抵抗したので妥協の産物として浙江省書記の習近平が上海市書記に就く。このポストが習近平がトップになるスプリングボードとなる。
同じ頃薄煕来の最大の後ろ盾であった実父であり党長老の薄一波が死去する。ここで習と薄の出世レースは決定的な差がつく。
薄煕来の汚職額は7200億円。
周永康
彼は太子党ではなく叩き上げ。北京石油学院卒。その後一貫して石油事業畑を歩き中国石油天然ガス集団社長を最後に政界に転出。その間常に江沢民のバックアップがあった。
最後は司法警察担当の政治局常務委員。周永康の汚職金額は2兆2千億円。薄煕来とは、商務部長(大臣相当)当時につながりができたものと思われる。
徐才厚
総政治部主任、政治局員、党中央軍事委員会副主席。最終階級は上将(大将相当)。軍の政治部というのは共産党特有のポストで軍における党の代表であり人事その他で絶大な権限をもつ。子飼いの谷俊山を通じて蓄財に励む。谷は軍の土地その他の資産を管理する立場を利用して知人に安く払い下げ裏で莫大な賄賂を受け取り、その一部を徐才厚に上納していた。
もう一つの谷のビジネスは売官。つまり軍の階級を売って金儲けに励んだ。
例えば入隊だけで100万円、下級将校で900万円、将軍で5億円等。正規の給料だけ考えたら到底間尺に合わないので、首尾よく任官したら元を取ろうとして汚職に励むことになる。汚職の連鎖だ。大連出身であることから大連市長、遼寧省長であった薄煕来とのつながりができた。
令計画
共産党中央弁公庁主任。これに相当するものが日本にないので分かりにくいが、総書記の最側近であり党政府のあらゆる情報が集まるポスト。このポストにつけば政治局員は約束されたようなもの。うまく行けばトップセブンも夢ではない。薄煕来とは出身地山西省つながり。
この本には書かれていないが、令計画の実弟令完成が、兄から預かった党と政府の最高機密情報をもってアメリカに亡命した。その情報を人質に取って兄等一族を守ろうとしているに違いない。今中国は密かに令完成の引渡しをアメリカ政府に求めている。
もしこの本が英語と中国語で出版されれば世界的な話題になるに違いない。但し中国本土で発行が許されるとは到底考えられない。
新四人組中薄煕来と周永康は正式に刑事裁判で有罪。徐才厚は取り調べ中病死。令計画が刑事被告人になるのも時間の問題だろう。
因みに本来の「四人組」とは、毛沢東死去直後に逮捕され失脚した江青、張春橋、王洪文、姚文元のこと
青木亮
英語中国語翻訳者