話題の民泊ビジネスは浮上出来るのか?

押し寄せる外国人でにわかに脚光を浴びているのが「民泊」。つまり、自宅の余った部屋を第三者に有償で貸す、というアイディアです。最も著名な運営会社がAirbnbですが、その語源から分かるようにイギリスでよくあるBed and Breakfast、つまり一種の民宿のようなものをネットの力を利用してマーケティングしています。

この民泊に関して日本政府が規制を緩める方針を打ち出しており、その第一弾として国家戦略特区に指定された市町村が法制化などを通じて具現化した場合に許可されるとされ、羽田空港に近い大田区が今年中にもその準備を行う方針を打ち出しています。

では、これを契機に民泊ブームが一気に日本に押し寄せてくるのでしょうか?現状からすればNOだと思います。

日本には民宿というAirbnbの原点があります。今では民宿も厳しい規制の中で営業をしていますが、もともとの発想はもっと緩やかなものでした。ウィキペディアによると「本来は農家や漁業者等の地方民家の一室を、スキー客や海水浴客など旅行者の宿泊に提供した、自宅開放型の宿泊施設が民宿である。このため寝室を除き、廊下・風呂・便所などの宿泊客の利用する共有部分は、民家で生活する経営者とその家族との共有施設となっていた」ものです。夏の海水浴に昔、民宿を使った記憶がありますが、普通の家プラスアルファぐらいで個室があって食堂はいろいろな人と一緒で普通の家のようなごちゃごちゃ感がありました。

今、特区で許可しようとしている内容は民宿の定義を緩める行為であり、正に特別な考慮であると言えましょう。

では、特区で民泊推進を打ち出す大田区や追随するとされている豊島区に住んでいる人は特別のビジネスチャンスが到来するのかといえばそんなに甘くはありません。

政府が打ち出したその条件の一つに居室25㎡を満たすとの条件があります。この居室ですが、建築基準法の定義で言えば個室とリビングやダイニング、また、安全上の理由から廊下もカウントできそうですが、便所や風呂はそのサイズに入りません。ここのスペースが25㎡あるかどうか、という一つの指針を打ち出しました。ちなみに25㎡とは約15.4畳です。日本の狭い家から考えればかなり広いです。

しかし、もう少し掘り下げるとこの話は実に奇妙であります。なぜなら、Airbnbはシェアハウスとは違い、通常、民泊する家のリビングやダイニングは使わないのが前提です。勿論、場所によっては「自由にお使いください」とするところもあるのでしょうが、ふつうは「余った部屋」とせいぜいトレイと風呂を貸すのが主流で居室の定義と実際の利用範囲は違う気がします。

つまり、割とあいまいな仕切りラインをとろうとしているのが今回の民泊に対する緩和条件ではないでしょうか?

ではその大田区。その中ならどこでもよいのか、といえば「条例案は事業範囲を建築基準法でホテル・旅館が建てられる地域に限る。蒲田や大森などの繁華街を含む区内の約5~7割が対象で、田園調布の一部などの住宅地は外れる。行政の立ち入り権限も盛り込み、事業内容をきちんとチェックできる体制を整える」(日経)であります。

おまけに滞在期間は7-10日を最低とします。その他安全対策に衛生面の管理を含めると極めて面倒くさい条例となりそうで、言葉通りに取れば主婦が趣味でやる範囲ではないということになります。

厳密な制約を課せられるとできない民泊ということになる上に、今までのあいまいな場合はなんとなく俺も、私も、という形で日本全国に広がる気配を見せたのですが、「民泊の定義」を行い、許可なり、申請なりを行わなければならないとすれば逆に「民泊ブーム」を沈静化させるに十分なインパクトがあるかと思います。

シェアハウスの時もそうだったのですが、行政の規制がまだない時期に雨後の筍の様に増え、その後、なんとなく簡易宿舎扱いとなり、東京都は今年に入りようやくシェアハウスの緩和案なるものを打ち出したのですが、その時には既にその第一次ブームは過ぎています。

ブームが過ぎたのは参入者が増えすぎて質のばらつきが出来たこととルールが明白になりハードルが見えてしまったことであきらめた人が多かったのでしょう。

こう言ってしまっては元も子もないのですが、最近の世の中は行政が許したビジネスでなにかトラブルがあると許した行政が悪い、という悪循環が起きるため、行政側が責任を少なくするためにがちがちのルールを設定する、という流れになっています。これは日本に限らず、何処でもその傾向は見て取れます。

世の中、複雑になり過ぎたということなのでしょう。ずいぶん前、ちょっと古びた「民宿」の6畳間の窓を開けると海風がスーッと吹き込んでくる、といったのんびりした時代がやけに懐かしく思います。

この話題、もう少し述べたいことがありますので明日に続けさせていただきたく思います。

では、今日はこのあたりで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 11月11日付より