米航空宇宙局(NASA)は5日、火星を周回観測している無人探査機「メイブン(MAVEN)」から送信された観測データを分析した結果を公表した。それによると、火星に大気が存在しないのは太陽嵐の直撃で大気が宇宙空間に飛び散ってしまったからだという。その一方、地球の場合、太陽嵐から放出される電磁波、粒子線などは地磁気圏でほとんど消滅するという。その為、地球には大気が存在し、生き物が生存できたと推測できるわけだ。このニュースを読んで、「地球は誰に感謝したらいいのだろうか」と思わず考えてしまった。
▲ NASA is advancing new tools like the supercomputer model that created this simulation of carbon dioxide in the atmosphere to better understand what will happen to Earth’s climate if the land and ocean can no longer absorb nearly half of all climate-warming CO2 emissions.
当方はこのコラム欄で火星について記事を書いた(「なぜ人は天を仰ぐのか」2015年10月10日参考)。NASAが9月29日、火星の地表に液体の水があることを報告したばかりだ。火星に生命体が存在していた可能性が考えられるわけだが、今回の観測データから、火星に大気がない謎が解明された。
ところで、火星も地球も誕生して約46億年というが、両者の運命を決定したのは太陽嵐から守る地磁気の磁場の有無だった。火星にはなく、地球にはあった。その違いはどこから生じたのだろうか。好奇心だけが先行し、肝心の天文学の知識に乏しい当方などは当惑するだけだ。
明確な点は、地球は人間が誕生し、生存できる全ての条件を有していたわけで、その一つでも欠けていれば、人間は存在できなかったはずだ。地球がもう少し太陽に近い位置を公転していたら、太陽の灼熱で生命体は生存できなかっただろう。
米国で話題を呼んでいる「インテリジェント・デザイン論」者の表現を借りるならば、宇宙は数億のパズルでハウスを組み立てるように、精密に構築されて出来上がっている。そのパズルの一つでも欠ければ全てが崩壊してしまう。火星と地球の運命を考える時、地球の位置が精密な計算の上で存在していることが分かる。感嘆と感謝の想いが湧いてこざるを得ないのだ。
全てが偶然ではなく、必然性を持って存在している。とすれば、そのパズル一つ一つがどれだけ貴重な価値を有していることだろうか。一つでも欠けてはならない。人体もそうだろう。多くの心臓外科医は心臓の精密さに驚嘆を覚えるという。小宇宙と呼ばれる人間に天体の構造が表示されているという学者もいる。
ナチスの強制収容所の体験をもとに書いた著書「夜と霧」が日本を含む世界で翻訳され、世界的ベストセラーとなったオーストリアの精神科医、心理学者ヴィクトール・フランクルは独自の実存的心理分析(Existential Analysis)に基づく「ロゴセラピー」を考え出し、世界的に大きな影響を与えた。そのフランクルは「全てに意味がある」と主張しているのだ。
われわれが住む地球は奇跡的に誕生したわけだ。聖書学的に表現すれば、地球は神が創造した「エデンの園」だったわけだ。しかし、その大切な地球が破壊され、傷つけられ、次第に人間自身の生存すら脅かすまでになってきている。
パリで今月末、国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開催される。そこで地球環境の破壊を止めるために協議が行われる予定だ。まだ時間があるとすれば、もう一度考えるべきだろう。われわれが地球に住む特権を有しているのならば、感謝すると共に、美しい地球を守る責任もあるはずだ。
地球を飛び出した宇宙飛行士は美しい地球にはどこにも国境線がみられなかったと報告している。国境・民族の壁を越え、われわれの思考を一度、地球の重力から解放すべきだろう(「『思考』を地球の重力から解放せよ」2013年2月9日参考)。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年11月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。