凡そ1年前、安倍首相は「再び(増税を)延期することはない」「財政再建の旗を降ろすことはない」と言われ「17年4月の10%引き上げの再延期は絶対にしないとの決意表明」をされたわけですが、昨日発売のある月刊誌のインタビューでも「リーマン・ショックのようなことが起こらない限り、2017年4月に消費税率は間違いなく10%にする」と述べられたようです。
此の「消費税率10%への引き上げと同時の導入を目指す軽減税率の制度設計をめぐる自民、公明両党の協議が“迷走”を続けている」ようで、先月20日「11月半ばまでに、自民党と公明党で大筋合意する必要がある」と言われていた自民党税制調査会の宮沢洋一会長も昨日の会合では、「大筋合意は20日と決まっているわけではない」と発言されたと報じられています。
当該協議を巡っては現会長の宮沢氏が据えられる以前にも『財務省が、いったん「満額」を支払い、マイナンバーを使って還付を受ける案を提示。自民党の野田毅税制調査会会長らは後押ししたものの、昨年暮れの衆院選で軽減税率導入を公約した公明党が強く反発し、議論が振り出しに戻った経緯』があります。
いま「主要税目改正、軒並み見送り」となる程に「軽減税率の制度設計に政府・与党が忙殺され」ており「年末までに制度設計が間に合わず、結局、先送りになるのではないか」(政府関係者)という見方も有るようです。
そういう中で来夏の参院選を見据えつつ、ある自民関係者は「軽減税率もしくは軽減制度が17年4月に間に合わないことを理由に、総理は消費増税を先送りするのではないか」との消費増税再々延期を推測してもいるようです。
当該税率を導入するに所謂「益税」の防止や対象品目の線引き、経理方式や財源の確保等と其の論点は多岐に亘るものですが、此の税率導入の弊害については2年程前にも『消費税軽減税率に対する私の考え方』というブログで指摘したことがあります。
今回自公が合意した「総合合算制度…医療や介護、保育などをあわせた世帯ごとの自己負担総額に上限を設け、低所得者の家計への負担を減らす施策」の見送りで捻出される約4000億円の財源に対し、対象品目の範囲は①「生鮮食品」(自民党案:3400億円)②「酒類を除く飲食料品」(公明党案:1.3兆円)③「生鮮食品+加工食品」(公明党譲歩案:8200億円)等と両党夫々で妥協点を見出し難いよう見受けられます。
私見を述べるならば、上記した自民税調の宮沢会長も言われている通り「当然、消費増税分の枠内ということになる」と私も考えており、公明党が主張するような高所得層への課税強化の類などはout of the questionです。
「WEDGE Infinity」の先月21日の記事「軽減税率は高所得者が得するバラマキ策」にも軽減税率の問題点に関し、「実務的には事業者の負担の増大が挙げられてきた。経済学的には、軽減税率そのものに逆進性緩和という再分配効果が小さいこと、軽減税率の対象品目に需要をシフトさせてしまうことが指摘されてきた」という大阪大学社会経済研究所の大竹文雄教授の主張が載っていましたが、そもそもが「経済学的にも欧州の経験からも、軽減税率は非常に問題が大きく、導入しない方がいいとされている」ものです。
昨日の「衆議院予算委員会集中審議で民主党の4番手として質問に立った前原誠司議員」は、「そこまで軽減税率に固執するのは、やはり公明党の主張に選挙対策上仕方なくおつきあいしているだけなのではないか」と安倍総理に迫ったようですが、此の公明党代表の山口那津男氏は「民主主義の基礎を支える制度的インフラ」として新聞や書籍も対象に含めるべきだとの考えも示しています。
上記新聞・出版物(…2%の軽減税率の適用で300億円程度の税収減)に関しては、自民・公明両党とも活字文化を守るためとして軽減税率の適用を求める声があがってもいるようで、消費増税時に軽減税率を適用すべきか否かという議論は常にあるものです。
このとき新聞の購読料金への軽減税率適用が不可欠だと考える人達は、「新聞が衰退すると多様な言論空間が縮小し、民主的な社会の衰退につながりかねない」といった類の主張を展開するわけですが、若者の圧倒的なネット利用の状況一つを例に取ってみても、極々一部の人の為にわざわざ新聞への適用に持って行く必要はないのではと思います。
軽減税率導入の是非につき基本的にはやはり、全て平等に単一税率を用いるべきだと私は考えています。何が何でも複数税率を導入せねばならぬ状況が生じた場合に限って後に具体的に考えて行けば良く、一部業界団体の圧力に屈する形で振り回され在るべき姿が歪められてはなりません。そしてまた仮に導入する場合であっても、極々限定した生鮮食品に絞り込むべきだと思います。
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