パリに本部を置く国連教育科学文化機関(ユネスコ)へ加盟申請した旧ユーゴスラビア連邦セルビア共和国自治州だったコソボは9日、加盟に必要な加盟国の3分の2の支持を得られず、加盟できなかった。
▲コソボの国旗(コソボ政府のHPから)
現地からの情報によると、ユネスコ総会の採決では、賛成は92カ国、反対は50カ国、棄権29カ国で、加盟承認の3分の2の支持に届かなかった。
コソボは人口約180万人の小国で、住民の約92%がアルバニア人、最大少数民族はセルビア人で約4%だ。コソボは旧ユーゴスラビア連邦時代、セルビア共和国時代の自治州だったが、セルビアとの民族紛争の末、2008年2月17日、独立宣言をして主権国家となった。
日本を含む主要欧米諸国は独立宣言を支持した。コソボの主権国家を承認している国は現在111カ国だ。国連の安保常任理事国ロシアは伝統的にセルビアを支持し、コソボの独立には反対。中国は明確な態度を保留している。
欧州連合(EU)加盟国28カ国中、5カ国が未承認だ。具体的には、スロバキア、ルーマニア、ギリシャ、スペイン、キプロスだ。それらの国をみると、いずれも少数民族問題を国内に抱えている。スロバキアやルーマニアは冷戦時代からマジャール人(ハンガリー人)問題で頭を悩ましてきた。スペインでは同国北部のバスク人問題がある、といった具合だ。それらの5カ国にとって、コソボの独立を認めれば国内の少数民族の独立を促す危険性がある、というわけだ。
コソボは今年で独立7年目を迎えたが、国民の間では独立直後の熱狂は既に消え、経済的困窮からセルビア経由、ハンガリー、オーストリア、そして最終目的地ドイツに向かって移民する人が増えている(「コソボの現代版“出エジプト記”」2015年2月12日参考)。昨年から今年にかけ、既に人口の約10%の国民が祖国を後にしたという。ちなみに、コソボ人の約40%は貧困下の生活を余儀なくされている。失業率は約45%、若者では75%にもなるという。
いずれにしても、バルカンの政情安定は欧州全土の発展に不可欠な条件だ。その意味で、EUはバルカンの盟主セルビアの欧州統合に更に努力すべきだろう。一方、コソボはセルビアとの関係修復を最優先課題として取り組むべきだ。セルビアの支持なくして国連加盟など国際社会からの認知は目下、難しい。
客観的に言えば、コソボが現時点でユネスコに加盟申請したのは明らかに外交ミスだ。プリシュティナ(コソボの首都)はこの敗北から学ぶべきだろう。
コソボ住民は念願の独立を獲得したが、その後、国家建設という更に困難な課題に直面している。コソボの独立をいち早く承認した日本外務省はプリシュティナの現状をどのように見ているのだろうか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年11月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。