「地方消滅」なのか「地方自治体消滅」なのか

渡瀬 裕哉氏の記事を読んで、どうも噛み合ってないな、と感じたので、寄稿させて頂く。

いわゆる「地方消滅」の話は、ほんとうに「地方」が消滅するのか、単に「地方自治体」が消滅するってだけの話なのか、きちんと分けて考える必要がある。


中央から地方に多額の財政移転が行われているのは事実である。

しかし、ここでいう「中央」とは「中央政府」の話であって、「東京の住民」という意味ではない。税金が国税なのか地方税なのか、ということである。

地方交付税制度は現状のままでいいのか

例えばイケダハヤト氏も多額の所得税(国税)を納めているはずだ。その税金は高知県の住民が払ったにも関わらず、関東近郊の道路工事に使われていることもあるのだ。「自分が払った税金が自分のために使われていない」という言い方は、あまり意味のある理屈ではない。

国が集めた税金の一部が地方交付税交付金という形で地方に配分される。このことに対して、「自分が払った税金が地方で使われるのはけしからん」と言ったところで、東京都以外の住民は地方交付税交付金を受け取っているのだから、大きな意味はない。自分たちにも一部は還元されているのだ。

逆に、都道府県では不交付団体が東京都だけしかないというのは、そもそも根本的な税制が間違っていると言えないのか。

財務省のHPによると、国家予算で歳入のうち消費税が171,120億円、それに対して歳出のうちの地方交付税交付金等が155,357億円だ。いっそのこと、消費税は全部地方税にして、地方交付税制度は廃止、社会保障費も地方負担の割合を増やして、消費税が上がった分は地方で社会保障費として使ってもらう、というような制度に改める位のことはやってもいいと思う。

そして、今地方交付税交付金を受け取っていない東京都には莫大な消費税が入ってくるのだから、その分は東京都がどこに配分するかを決めれば、納税者の不満も減るだろう。

裕福な市町村とは?

そもそもどういう自治体が裕福になるのか。地方税の内訳を見てみる。今度は総務省のHPから。

市町村の税収を見ると、半分近くは固定資産税である。ということは、地価が高い自治体ほど裕福で、地価が安い農村部ほど貧乏になる。また市町村民税も住民の所得に比例するので、高所得者が少ない地方ほど、貧乏になる。

「大都市部の住民が払った税金が地方に流れる」という不満もわかるが、そもそも税制自体が大都市部に有利になっているのだ。先に消費税を自治体間で融通する制度にすればということを書いたが、固定資産税についても同様ではないだろうか。また、土地というのは国土を構成する重要な要素なのだから、固定資産税こそ国税化する、という考え方でもいいだろう。

地方自治体が消滅したらどうなる?

では、地方自治体が消滅したらどうなるのか。その自治体が存在していた土地から自治体が消えて、管理者不在の土地になるのだろうか。

現実にそんなことはなく、隣接する市町村に吸収されることになるだろう。

吸収する側の自治体は、それで嬉しいのか。

「平成の大合併」で合併できなかった自治体には、財政状況が悪く近隣自治体に合併してもらえなかった所が多々ある。夕張市のように無駄なハコモノを作って、財政状況が悪くなったケースなどだ。そういう自治体が立ち行かなくなったからといって合併を迫られる近隣自治体の住民は、合併に納得できるだろうか。

決してそんなことはない。隣の自治体の無駄遣いの穴埋めに、何で自分たちの税金を使われなければならないのか、と思うのが自然である。

結局この構造は、東京の住民が自分たちの税金が地方で使われるのがけしからん、と言うのと、何らかわらないのだ。隣に接しているからこそ、隣町の無駄遣いに対する反発はむしろ強くなる。

じゃあ住民全員が東京に引っ越すから、その自治体は東京都の飛び地にして、人は住まないから東京都に土地の管理だけやってくれ、という方法だってあるだろう。

多少話は違うが、新潟県の刈羽村は、原発関連の歳入がないと村が立ち行かなくなるから、じゃあ村を潰して、東京都に編入して、原発を再稼働させる、なんてことだって、考え方としては成り立つ。

中央と地方で悪口を言い合うのでなく、もう少し双方がいい方向に向けるような議論をした方が生産的ではないだろうか、と、この手の話を見ていていつも思う。

前田 陽次郎
長崎総合科学大学非常勤講師