ポスト「リーマン・ショック」とモテモテ絶食系男子

時代は「絶食系」?
バブル華やかなりし頃、ホイチョイプロダクションの『東京いい店、やれる店』に象徴されるように時代の花形は女性への興味全開で性に積極的な男性たちでした。
やがてバブルがはじけるとこのような男性たちは勢いを失い、変わって「肉食系女子」という男性への興味を隠さない女性たちが話題になりました。相対的に男性たちが性にドライになって「草食系男子」と呼ばれるようになりました。
しかし、草食系男子の時代も今は昔のようです。今や絶食系男子の時代になってきたようです。

絶食系男子の生態
今,若い女性たちに「絶食系男子」が人気です。絶食系男子とは、女性を性的な対象として見ないけど、決して「オネエ」や「ゲイ」ではありません。モデルの「こんどうようぢ」さんやボーイズグループ「XOX (キス ハグ キス)」のリーダー「とまん」さんが有名です。
彼らは食べることにも、社会的にのし上がることにも興味を持たない場合もあります。ここだけ見るとまるで生きる気力を失っているかのように聞こえますが、決してそうではありません。
たとえば,「こんどうようぢ」さんはモデルとして活躍するくらいですから、ファッションや美意識には強いこだわりを持っています。イキイキと活躍しています。逆に言えば、こだわりを持つ何か以外には人の基本的な欲求と思われる部分であってもあまり興味を示さないのが特徴です。「ギラついていない」雰囲気も女性には好感を持たれているようです。
sasae

絶食系男子は正常?異常?
異性への興味も食べることへの興味も,生物として根源的な興味です。それが乏しいとは…。味方によれば絶食系男子は生物としてちょっと変に見えるかもしれません。
ですが,現代社会では合理的な生き方かもしれません。なぜなら,現代社会は人類史上稀に見る「競い合うことが虚しく、リスキーな時代」なのです。性的な興味も,食べることへの興味も,社会でのし上がることへの興味も,全ては淘汰を生き残るための,言い換えれば競いあうための進化論的な欲求です。進化心理学的に見ると,彼らは無駄に競い合うことを避けるために,これらの欲求を最小限にしているとも言えるのです。

競い合うことに意味がある時代とは
手つかずの新天地や未開拓の金脈があちこちにあれば,競い合いには意味があります。切り開けばみんなが豊かになれるのですから。
しかし、今や世界人口は地球の許容量の限界が懸念される時代です。領土をめぐる紛争も絶えません。競い合いは奪い合いになるわけで、お互いに傷つき滅ぼしあうことになります。

バブル崩壊,リーマン・ショックの衝撃
バブル期には文字通りの金脈や未発見の資源はほとんどなくなりました。しかし,まだ「ビジネスチャンス」や「新規ビジネスモデル」といった未開拓の「金脈」がどこかにあるという期待が持てました。競い合うことにも意味を見いだせました。
ですが、新規ビジネスモデル開拓の限界はリーマン・ショックのサブプライムローン問題で世界的に明らかになりました。時代は競い合うより、今あるものを大切にして分かち合うモードに向かわなければならない局面に来ているのです。

競争から逃げているのか?「“足る”を知る」生き方なのか?
絶食系男子は平成不況からリーマン・ショックにかけて「社会の発展可能性が見えない…」と暗くなっている大人たちを子どもの立場で冷静に見ることができた世代です。また,競い合わなくても生きるのに不自由しないだけのものは子どものころから十分に与えられてきました。無理に競い合うよりも、自分が自由にできるものでどう満足するか、どう無理なく生きるかを探してきた結果として絶食系男子という生き方にたどり着いたようです。経済学者ピケティが指摘する超格差社会を自然に受け入れているようにも見えます。
生きるためには何かしらの生きる喜びが必要です。彼らはファッションにこだわりや喜びを見出すなど、無益な競争に結びつかない何かを喜びとして生きているようです。
見方によっては,「競い合って,敗れて,傷つく」ことを避けて自分に酔いしれているだけにも見えますが,「“足る”を知る」を実践している点では見倣うべきところもあるかもしれません。未だにバブルの幻想や残骸に生きる喜びを見出して競い合うよりも、今なら合理的な生き方のエッセンスがあるのかもしれません。
【執筆者】
笑顔

杉山崇
神奈川大学教授
臨床心理士、1級キャリアコンサルティング技能士
公益社団法人日本心理学会代議員
精神科、教育委員会、企業メンタルヘルス事業所などで20年余り心理職を務める。
研究者としてはうつ病の対人関係と心理療法の研究で国費助成を20年弱得ている。
「心理学でハッピーになるお手伝い」を目指して、yahooニュース,mocosuku womenなどでも「使える心理学」を配信中!

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