18歳への投票権拡大は、女性参政権が認められた1945年以来、実に70年ぶりの参政権の拡大であり、今年大きな話題となった政治的決定でした。
この結果、来年(2016年)の参議院議員選挙から新たに増える有権者数は240万人。前回衆議院議員選挙の有権者数は103百万人でしたので、当時から約2.3%の有権者が新たに誕生することになります。この出来事を、長年、問題視されてきた若年層の低投票率解消に結び付けようと、総務省・文部科学省による副教材「私たちが拓く日本の未来」のように、様々な主体が18歳投票権の到来に向けた準備を進めています。
そして、その動きは大阪W選挙でも見られています。
「大阪模擬選挙2015」サイトより
MANIFESTO SWITCH 大阪模擬選挙2015では、大阪府知事選挙、市長選挙における候補者のマニフェスト(マニフェストスイッチ書式を使用)を用意、模擬選挙の授業モデルや、大阪府市の政策学習資料などと共に公開しています。
大阪模擬選挙2015とは
大阪模擬選挙2015の特徴は、大きく3点あります。
1つ目は、大阪以外の地域でも模擬選挙を行うこと。2つ目は中立性に配慮した政策資料を第三者が準備、提供すること。3つ目は、授業のモデルや、マニフェストを読み解くための学習資料、補助ワークの提供です。
18歳選挙権の実現を前に
従来、学校における政治教育は、政治的中立性に配慮し行われてきましたが、過去の経緯から中立性への配慮が強く求められているのは、皆さんもご存じのとおりです。しかし、時として中立性への配慮が強すぎるあまり、政治的に中立なのではなく、知識として制度や仕組みだけを教える非政治的な教育になっているとの指摘がされることもありました。
そのため、十分な政治教育が行われないまま18歳投票権の実現を迎え、学校現場で混乱が生じることも危惧されていました。
そこで、全国的な注目度も高く、一定の報道が見込まれ、情報の取得が容易な大阪W選挙を題材に模擬選挙を行うことで、18歳投票権本番に向けた準備、予行演習をしようと大阪模擬選挙2015は呼びかけています。
生徒たちは、実際の選挙期間中に本物の政策情報で模擬選挙をすることで、政治や地域のことを知り、社会とのつながりを感じる機会を得ることが期待されます。
授業で選挙・政治を扱うハードル(政治的中立性、教員の大きな負担)
授業の中で論争的な話題を扱う際は、中立的な対応が求められます。模擬選挙においては、複数の立場からなる報道情報の紹介、候補者情報の収集など、現場の先生に大きな負担がかかるのが実情でした。
大阪模擬選挙2015では、大阪青年会議所と早稲田大学マニフェスト研究所がマニフェストスイッチ書式に則った政策(マニフェスト)を、各候補者から収集。選挙管理委員会とも連携し、希望する学校への選挙公報の配布をあっせんするなど、少ない労力の中で、政治的中立性と政策情報が収集できるスキームを実現しました。
授業モデル、学習資料の提供
模擬選挙推進ネットワークや各地の選挙管理委員会や明るい選挙推進協会などを中心に、これまで模擬選挙に係る取り組みは着実に積み重ねられてきました。
しかしながら、すでに模擬選挙を経験している学校の数はまだまだ限られているのが実情です。
そこで、先進事例の知見などを活用しながら、マニフェストスイッチ版マニフェストを活用した授業モデルを開発、webサイトを通じて発信しました。
また、マニフェストを読み解くためには、その背景にある自治体の情報も必要となります。そこで、大阪府市と共に人口動態や世代別の推定投票率、個別の政策領域における背景の解説資料などを用意、提供しました。
用意した資料の中では、たとえば、次のような問いかけがなされています。
2010年国勢調査での世代別人口と、2015年5月に行われた大阪都構想での推定世代別投票率を掛け合わせて求められる世代別の推定投票者数は、20代:15.4万人、30代:25.4万人、40代:25万人、50代:23.1万人、60代:29.8万人、70代~:29.9万人。
60代の投票者は、20代投票者の倍近くになっています。
世代がすべてでないものの、世代ごとに必要とする政策に違いが生じやすいことも事実です。(例えば、若者の就業支援策について、学生の皆さんと、すでに定年を迎え退職された方々では必要性が異なるはずです)
あなたが政治家とだとすると、誰に訴えかける政策を伝えたくなりますか?
若者であるということは、他のどの世代よりも長く大阪に、その地域に住み、暮らしていく可能性が高いということでもあります。私たちの声を政治に届けるためには何が必要になるのでしょうか?
広がる全国での取組み
この取り組みに共感し、実践する学校の輪は全国に広がっています。
これまでに参加を表明した学校は、全国で高校:19校、大学:5校 (あわせて約1,200人対象)に上っています。
模擬選挙の結果は、公職選挙法との兼ね合いからW選挙の開票結果が明らかになってから公表されます。
未来の有権者が選んだ未来は、実際の有権者が選んだ未来と重なるのかどうか。
また、18歳投票権本番に向けてみつかった課題やテーマはどのようなものがあるのか。今後の動向が注目されます。
原口和徳:埼玉ローカル・マニフェスト推進ネットワーク事務局
1982年埼玉県熊谷市出身。中央大学大学院公共政策研究科修了。早稲田大学マニフェスト研究所 議会改革調査部会スタッフとして、全国の議会改革の動向調査などを経験したのち、現所属にて市民の立場からのマニフェストの活用、主権者教育などの活動を行っている。
WEBサイト:http://blog.canpan.info/slm/
編集部より:この記事は、選挙ドットコム 2015年11月22日の記事『もう一つの大阪ダブル選挙、未来有権者による模擬投票の注目の結果とは!?』を転載させていただきました(見出しはアゴラ編集部で改稿)。オリジナル原稿をお読みになりたい方は選挙ドットコムをご覧ください。