兵庫県の号泣県議や女性閣僚のW辞任が騒がれた昨年に続き、2015年も政治とカネの話題が「豊作」だった。閣僚の辞任や業界団体の迂回献金事件、政治資金でダイエットに励んでいた国会議員も明るみに出た。こうした政治資金スキャンダルは特別な取材網を持つマスコミにしか調べられないと思われがちだが、実はそんなことはない。マスコミ出身の筆者が、「誰でもできる政治資金スキャンダルの暴き方」を伝授する。
「政治資金でRIZAP(ライザップ)」。今年11月28日、新聞各紙にこんな見出しが躍った。民主党の参議院議員が政治資金を使い、最近話題のダイエット専門トレーニングジムに75万円支払っていたという記事である。
マスコミはなぜ気付いたのか。実は前日の27日、岐阜県選挙管理委員会が2014年分の政治資金収支報告書を公開。記者が各政治団体の収支報告書を調べていたところ、ライザップに政治資金を支出していた団体を見つけた、というわけだ。
報告書を見れば一目瞭然
この政治資金収支報告書、記者に限らず、誰でも見ることができる。例えば岐阜県の場合、岐阜県庁の3階、選挙管理委員会事務局に行けば、簡単な申込書を出すだけで、誰でもその場で収支報告書を閲覧できる。実費を払えば、資料をコピーして持ち出すことも可能だ。
報告書をパラパラめくると、まず出てくるのが収入欄。政治資金パーティーをいつ、どこで開き、どれだけの収入があったのか。いつ、どんな人、どんな企業や団体からいくら寄付を受けたのか。生々しい数字や氏名、住所が目に飛び込んでくる。
収入欄を見るだけでも、その政治家がどんな人、どんな団体と「深い」付き合いをしているかわかる。自民党の大物議員ともなれば各種団体がずらりと並び、しがらみの深さをうかがわせるし、野党の新人は真っ白で、資金力の弱さが一目瞭然でわかる。
支出欄はもっと面白い。日々の備品購入や交通費、飲食費などが並んでおり、いつ、どんな店で、いくら使ったのかが丸わかり。新聞の社会部や雑誌の記者はこの報告書をひたすら読みこみ、「政治資金でキャバクラ」などといった記事を書くのだ。
ある閣僚の政治団体がSMバーに政治資金を支出していた問題も、この収支報告書が発覚のきっかけ。怪しい店の名前があると、記者がインターネットや知人を通じて、どんな店かを調べるのだ。
報告書や領収書には「誰が店に入ったか」までは書いていないので、各事務所は「秘書が使った」などと言い逃れするのが常。ただ、秘書がボスに黙ってキャバクラで豪遊するというのは考えにくい。私の感覚では少なくとも3割は政治家本人が使っているはずだ。
収支報告書の探し方
収支報告書の見方はざっとこんなものだが、実は探すのが難しい。政治家は「〇〇後援会」「〇〇政治研究会」「〇〇党○○県第一選挙区支部」などといった政治団体をいくつも抱える。すべての団体の会計をトータルでみなければ、議員事務所の実態には迫れないが、一見して誰の団体かわからないものも多い。
もう一つは報告書の提出先がバラバラだということ。すべての政治団体は一年間の収支を翌年春までに報告しなければならないが、提出先は総務省か、都道府県の選挙管理委員会かで選べる。例えば安倍晋三首相の関係する政治団体は6つあり、3つは総務省、3つは地元の山口県選挙管理委員会に提出している。
総務省に提出された報告書はすべてインターネットで公開されているが、都道府県レベルでは、公開していないところが多い。その場合は都道府県庁に足を運ぶか、都道府県に電話をかけ、申込書類を送って請求しなければならない。面倒この上ないが、政治家にとって都合がいいからか、制度を改善しようという動きは非常に遅い。
ちなみに私が国会議員の政治資金を調べる場合、まず総務省のホームページで各議員の関連団体を確認する。下記のページにアクセスし、一番下の「平成27年3月31日時点における現職国会議員に係る国会議員関係政治団体」がそれ。この表を見れば各議員の抱える政治団体の名称、そして収支報告書の提出先がすべてわかる。
http://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/naruhodo04.html
「市民記者」に期待
大手メディアの記者は面倒だから、話題になりそうな議員にターゲットを絞って報告書を調べる。しかし、その陰で悪いことをしている政治家は山ほどいる。選挙における公平性を期すためにも、政治スキャンダルを暴こうとする「市民記者」がたくさん誕生してほしい。
山本洋一:元日本経済新聞記者
1978年名古屋市出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、日本経済新聞社に入社。政治部、経済部の記者として首相官邸や自民党、外務省、日銀、金融機関などを取材した。2012年に退職し、衆議院議員公設秘書を経て会社役員。地方議会ニュース解説委員なども務める。
ブログ:http://ameblo.jp/yzyoichi/
編集部より:この記事は、選挙ドットコム 2015年12月4日の記事を転載させていただきました(見出しはアゴラ編集部で改稿)。オリジナル原稿をお読みになりたい方は選挙ドットコムをご覧ください。