風営法はパチンコメーカーに殺された --- 宇佐美 典也

ども宇佐美です。

パチンコVW問題の続きです。前回は大枠の制度的なことについて述べたので今回は「具体的にパチンコ業界(特にメーカー)がどのような不正を働いたのか」ということについて述べたいと思います。

さて前回の記事でも述べましたが、国家公安委員会(=警察)はパチンコのギャンブル性が高まり過ぎないようにするために、風営法施行規則第9条において「著しく射幸心をそそるおそれのある遊技機の基準(射幸性基準)」というものを定めています。風営法ではこの射幸性基準に触れる遊技機を設置して営業することをホールに禁じているのですが、具体的には以下の表に掲げる11の項目が挙げられています。

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やや細かくなりましたが以上のように現状パチンコホールに設置されているパチンコ遊技機はこの11の基準のうち4項目に違反の疑いが持たれています。そして、少なくとも「役物比率」の基準に関しては警察が遊技産業健全化推進機構を通して行った調査によって明確に違反していることが証明されています。他の3項目は、役物比率に連動するので、役物比率を違反しているなら当然違反している可能性が疑われるという項目です。ここで当然に出てくるのが

「さっきから話題に出ている『役物比率』とは何か?」

という疑問なのですが、役物比率とは一言で言えば「大当たりによって獲得できる出玉の比率」ということになります。

現在設置されているパチンコ遊技機では、「通常時に還元される球(ベース獲得球)」と「大当たり時に還元される球(大当たり獲得球)」が明確に峻別されています。風営法ではこの両者の比率の上限を「3:7」と定めています。これが役物比率です。パチンコというのは「通常時に負けて、大当たりで取り戻す」というゲームなので、役物比率はパチンコのギャンブル性を決める最も重要な指標の一つとなります。

具体例で説明しましょう。例えば100球打てば90球還元されるパチンコ遊技機(還元率90%)があるとします。この場合このうちの3割(=27球)は通常時に得られるベース獲得球でなければならないということです。逆から見ればパチンコの打ち手は平均で100球(1分)あたり73球損し続けて、大当たりで平均して(63球×損した時間数)の球がドバドバ出て来て取り戻せるということです。

では100球辺りに27球のベース獲得球というのはどのように実現されるのでしょうか?

「ベース獲得球の総数」は「始動口」と「一般入賞口」と呼ばれる2つの穴への入賞数によってきまります。「始動口」は別名「へそ」とも呼ばれるパチンコ遊技機の中央に設定された大当たりの抽選が伴う穴で、「一般入賞口」は大当たりの抽選が伴わない単に球を還元するだけの穴です。始動口に入ると一球あたり3球、一般入賞口に入ると一球辺り7球ほど球を獲得できますので、

ベース獲得球=始動口入賞数×3+一般入賞口入賞数×7

ということになります。

現状パチンコホールに置かれているパチンコ遊技機は概ね100球(1分)あたり5.5球が始動口に入るようになっています。なので3×5.5=16.5球が始動口から還元される球ということになります。そうなると残りの27-16.5=10.5球分は一般入賞口を通して還元されなければならないことになります。つまり10.5÷7=1.5で100球辺り1.5球は一般入賞口に入賞しなければならないことになります。

大事なことなのでもう一度言います100球辺り1.5球は一般入賞口に入賞しなければならないことになります。さてでは警察の実態調査の結果はどうだったのでしょうか?結果を示すと以下の通りです。

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https://www.suishinkikou.or.jp/image/20150924.pdfより)

この表は遊技産業健全化推進機構という団体が8月に全国で行った実機調査の結果をまとめたものですが、実機調査では「約30分の打ち出しでどの程度一般入賞口に球が入るか?」が調べられました。

調査の平均の打ち出し個数は2987個ですから、先ほどの計算の通り最低限の値として、2987×1.5%≒45個が平均で一般入賞口に入らなければならない計算になります。ところが調査の結果は上の表の通りで、102台のうちそもそも10個以上一般入賞口に球が入ったのが3台だけで、40個以上の入賞が確認されたものは一台も無いというとんでもないものでした。。。。検定の時には問題なく役物比率が満たされていたはずですので、全てのパチンコ機の釘が不正に調整されていたわけですね。。。

つまり全てが違法にギャンブル性を高めた不正改造パチンコ機なことが証明されてしまったわけです。

当然警察としては違法状態を放置するわけにはいきませんから、パチンコホールにこの状況を是正するように求めています。

ではこの状況をパチンコホール側で直す方法があるのか???

ということなのですが、結論から言えばホール側には打つ手がありません。もちろん一般入賞口を広げてベース獲得玉を増やせば現行80~85%で調整されている役物比率を下げて70%以下にすることはできます。しかしそうすると今度は還元比率が10%程度あがるわけで、現行90%程度で調整されている還元比率が100%を越えてしまい赤字営業を強いられることになります。そもそもの機械が違法営業を前提に作られているわけですから当然です。

他に選択肢としては釘を叩きまくって「始動口入賞率を下げて、一般入賞口入賞率を上げる」という複雑な調整をして役物比率と還元率のバランスを取ることも考えられないわけではありません。ただそもそもこのような複雑な釘調整は困難であり、警察としても見分けて取り締まりが困難になります。つまりこれは「絵に描いた餅」の非現実的な選択肢ということになります。

では警察が全てのホールを取り締まって営業停止するしかないのか?

という話になるわけですが、そうすると今度は数十万人規模の行く先の無い失業者が突如生まれてしまうことになり、警察としてもそこまで踏ん切りがつかない状態です。つまり現状というのはパチンコの違法遊技機・違法営業が蔓延しながらも、それを排除する手段が無いという完全に行き詰まった状態にあります。このように風営法によるパチンコ遊技機の射幸性管理制度は事実上瓦解しています。

一言で言えばもはや風営法は死んでいるのです

では殺したのはだれか?
それは間違いなくパチンコメーカーです

そもそも風営法のパチンコ遊技機管理のしくみというのは、個別のパチンコホールが釘調整をしなくてすむように、前回説明したような、

 ①警察による型式の検定試験
 ②型式に基づいたメーカーの検定機種の大量生産
 ③ホールにおける警察の検定機種遊技機の個別認定

というパチンコ遊技機の検定・認定制度を設計しているわけです。

この制度は「パチンコメーカーが検定試験を通過したモデルと同じ性能の物を大量生産する」という当たり前の大前提の下で機能するものです。その大前提を、パチンコメーカーが自らが不正に検定試験を突破して、検定機種と違うものを大量生産して出荷して壊してしまったのです。その結果このにっちもさっちも行かない状況が生まれているのです。

風営法の枠組みが壊れた状態で行われている現在の高射幸性の遊技機を用いたパチンコホールの営業はもはや「遊技」ではなく刑法で取り締まる対象の「賭博」ではないのか、というのが私の意見です。(この辺りについてはまた別途まとめます)

なおたまにパチンコメーカーの方が「警察が俺たちを取り締まらなかったことに問題がある」などということを言っているのを聞くのですが、それは泥棒が「オレを捕まえなかった警察にも責任がある」というようなもので、屁理屈にもなっていません。

もはや風営法を元のように機能させることはできないかもしれません。しかしながら風営法をぶち壊したパチンコメーカーには市場から退場して責任を取ってもらう必要があります。それには何が必要か

パチンコメーカーの検定取り消し

ということになるでしょう。全ての議論はそこから始まるはずです。

違法な営業で利益を上げ続けて、上場までして、遊技を賭博化させて、ギャンブル依存症罹患者の家族を苦しめて、そして何のお咎めもなし

では「何のための風営法だったのか?」という話でしょう。警察には是非業界浄化に向けて、固い決意の下で粛々と業務に取り組んで欲しいと祈っています。

ではでは今回はこの辺で。
引き続きこのテーマは追いつづけます。


編集部より:このブログは「宇佐美典也のblog」2015年12月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のblogをご覧ください。