世界に保守化の時代が到来するのか?

何時だったか、私はこのブログでリベラルの時代がやってきた、と述べたことがあります。世の格差問題、特に北米では「99%と1%」の対立などから民衆の声が政治に反映されやすい機運があったと思います。特にオバマ大統領が民主党出身であり、氏の政策がリベラルであることは少なからずも地球規模での影響力はあったかと思います。フランスでサルコジ氏に代わり、オランド大統領が当選したことも後押ししました。

ただ、リベラルも度を超すと好き勝手やり放題になりかねない危険性があります。世の中、「個の時代」と言われる中で個がバラバラに自己主張をし続けたら100人に100人の意見が生まれることになり政治は出来なくなります。その揺り返しなのか、今になって保守の台頭の芽が出てきた気がします。

ブラジルのルセフ大統領。訪日して天皇陛下とのスケジュールまで組まれていたのに突然キャンセルとなりました。理由はブラジル国内の統制が全く取れず国を離れられないからです。敢えて彼女を代弁するなら「今、地球の反対まで楽しい話をしに行ったら私の戻るところはない」ということでしょうか?発表された同国の7-9月のGDPは前年比4.5%減と20年来の下落振りで大統領の支持率は一桁台で目も当てられない状況にあります。

そのルセフ大統領はリベラル、それもパリパリの左翼で労働者党から大統領に就任しています。が、今や同国の経済、社会はかつてBRICSの一角として注目されたのも遠い昔、今やその影すら見えません。おまけに汚職問題に鉱山のダムが決壊する事件まで起きています。そんな彼女が側近に「私にどうしろというのよ!」とヒステリックな声を上げているのが目に浮かびます。

フィナンシャルタイムズの記事、「2017年の悪夢」は注目に値しました。仮にアメリカの2016年11月の大統領選でドナルド トランプ氏が当選し、2017年のフランス大統領選で極右政党のマリーヌ ル ペン氏がイスラム排除を声高に叫ぶ時代が到来したとします。そこに国家主義者のプーチン大統領と習近平国家主席が並べば明日、何が起きてもおかしくないパワーゲームが起きかねません。その過激さからすると安倍首相は優しい懐柔者であります。

フィナンシャルタイムズのポイントはこのタイプの指導者が影響力を増す素地を作ったのは経済不安の高まり、移民に対する反発、テロへの恐怖、そして従来型メディアの衰退である、としています。従来型メディアの衰退とは言論の自主統制とも言いたくなるボイスの偏りを意味するものと考えてよいでしょう。

民主化が盛り上がったのは北アフリカの春でありました。私は民主化運動に反対はしませんでしたが国家が統率できなくなると指摘しました。理由は既存独裁政権を倒し改革するという民衆の声は同床異夢であり、確固たるプランが存在しなかったからです。クーデターは意思をもった集団による政府転覆ですが、民意の扇動はポリシーが欠如しやすい欠点が生じます。

個人的にはこの流れがIS(イスラム国)を生んだ理由の一つだと考えています。イスラムの宗教的教義が分裂しやすく、抑圧されていたものがそこで勝手な動きを始めたと言えないでしょうか?逆説的ですが、中国は共産党が仮に崩壊すれば同様に13億の民がバラバラに行動し始めるでしょう。これは全く想像がつかない結末を生み、世界は混とんとするはずです。

それゆえに強面の強権者が世界を封じ込めることで民衆が権利を振りかざしベクトルが分散するのを防ぐ作用をしようとしているとしたらどうでしょうか?ドイツのメルケル首相は絶対安定の地盤の上でドイツのみならず、欧州の経済的危機に全力で立ち向かい、大きな成果を上げてきました。ですが、移民問題、経済問題、更にはVW問題で反メルケルの声は大きくなってきています。そしてこちらも2017年に総選挙を控えます。彼女も任期が長くなっているので17年の選挙でどういう結果が出るかは予断を許しません。

今、世界は明らかにひずみが生じています。2015年も残り2週間余りとなり、16年の展望の話が増えてくると思いますが、大きな流れで見るとリベラルから保守への趨勢、そして16年後半から17年にかけて主要国で国民による審判が下されるその行方に注目せざるを得ないでしょう。イギリスのEU離脱を問う国民投票もその頃に行われるとみられています。事の成り行き次第では今までの世界がごろっと変化する要素を持ち合わせていることを頭の片隅に置いておく必要はあるでしょう。

私には保守というより強権と統制という響きに感じます。あまり芳しくない流れではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人