地方消滅VS地方創生という面白い議論が展開されていたので,遅ればせながら参戦(笑)
何事も結論から単刀直入に言う方が人に伝わりやすいので,結論を先に行っておきますね。
経済活動は一部地域に集積するけど,距離とか移動の妨げがなくなって経済圏が一体化すると,消費と所得は平準化するというのが経済学の知見です。その法則(仮説)からすると,地方創生のためには都市とつながろう、というのが私の意見。
1.経済学の知見
世界銀行は『世界開発報告2009-変わりつつある世界経済地理』を発表しました。(日本語の概要版がこちらでダウンロード可能になっています。)
これは,地域,都市経済学(あるいは空間経済学)のこれまでの研究成果にもとづいてまとめられたものです。ざっくりこの本の主張をまとめると「経済活動は一部地域に集積するけど,距離とか移動の妨げがなくなって経済圏が一体化すると,消費と所得は平準化する」といいます。これが現在の経済学のスタンダードな見方です。これにもとづいて考えていきたいと思います。
2.都市化は進行する
まず,日本でみても,世界でみても都市化は上昇の傾向にあり,それがひっくりかえることはないです。
それは長坂さんのデータが示す通り。
世界の都市化率についても同じことがいえます(UN-HABITATの統計もそれを示している)。
つまり,一部地域、都市に人々が集まり経済活動が行われるという集積の傾向は変わりません。なぜそうなるかは一言で言ってしまうと,企業はコストが減少し,消費者は便益が増すからです。市場経済が発達し,人々の意思決定が自由であるならば,都市の方が地方よりも経済活動は行いやすいのです。
3.都市ががんばれば地方も豊かに
経済活動が一部都市に集積すると地方はどうなるんだと思われるでしょう。でも、安心してください。都市の発展は都市以外の地域、過疎地域も含めて所得を引き上げます。
高知県が貧しいということはなく,人口の集積具合に比べれば,東京都と許せないぐらいの格差があるわけではないです。
平成24年度の統計(人口と1人当たり県民総生産)をみてみましょう。東京の人口は1324万人です。日本の総人口10%以上の人が東京に集まっています。一方高知県は75万人,日本総人口の0.6%です。圧倒的に東京という大都市に人が集まっています。(近隣の神奈川,埼玉,千葉を入れると3000万人を越える!)
1人当たり県民総生産では,1位の東京が442万円であり,2位愛知344万円,3位静岡320万円と続いていきます。高知県は225万円(45位),沖縄県204万円(47位)です。東京が圧倒的に経済活動が集積しているので当然としても,3位の静岡は高知県の1.5倍程度です。
つまり経済活動の集積具合に比べて,所得の差は小さいです。また,お隣中国の上海と貴州の差が約4倍あることを考えれば,所得水準は平準化しているといえるでしょう。(ちなみに10年前は10倍開いていた。)
世界的にみても、先進国は都市化が進んでもそれ以外の地域は貧しくなったかというとそんなことはなく、やっぱり豊かになっています。
経済活動はなくなってきて、地方は閑散としてきたという実感があったとしても,高知県の人の所得と消費が東京に劣っているということはあまり感じられません。
つまり集積して東京が発展すると,地方にもかならず恩恵があります。これが経済の波及効果といわれます(経済学者ハーシュマンは浸透効果と名付けた)。
東京が発展すると,フィリピンの辺鄙な島にはなんの効果はありませんが、高知県、はては沖縄県にも恩恵は波及しているのです。
経済は相互につながっています。一部地域の都市化のみ,あるいはその反対に一部地域の過疎化に焦点をあてても,本質を見落とします。
4.地方は何をすべきか
地方は何をすべきでしょうか。水谷さんが,地方の観光化とかゆるキャラ戦略に金を使うなと,提案されましたが,まさしくこの通りだと思います。これは得策ではなく,確かに無駄な可能性が高いです。以上でも述べたように,人は都市に集まっていくからです。
では何をすべきか?
東京,愛知(名古屋),大阪といった都市圏と「つながる」ことです。高速道路,鉄道,空港,物流センターなどなど,都市とつながることです。情報でいえば,インターネットを普及させることです。財・サービス,人,お金,情報が常に都市とつながっている状態にすることを考えるべきです。
財・サービス,人の移動に関わるコストを下げる方が有益です。
もし,公共事業がきらいなら,iPadのようなガジェットを県民に配り,使い方の講習を行うべきです。そうすれば地方は都市という経済活動の恩恵を受けることが可能です。
イケダさんが高知県に住むことを可能にしているのはまさに現在の日本の各地方が都市との強い「つながり」を確保しているからだといえます。東京への移動に1週間もかかるとか,ネットがないとかになれば,高知県はもっと貧しくなっていたかもしれず,そうすると東京の人がそこに住むという選択肢もなくなります。
世界をみると先進国と途上国に分かれています。途上国の特徴は,先進国との垣根が高い,国境による封鎖度(手続きが煩瑣だとかVISAが発給されにくいとか),世界市場へのアクセス悪い(内陸部だとか,空港がないとか)といった問題があります(世界銀行の報告書)。
中国も地方と都市部(上海,北京,天津など)との格差は開いていましたが,高速道路,高速鉄道,空港の整備などによって一国の時間距離は大幅に改善しました。また戸籍など人の移動を妨げる制度もありましたが徐々に改善し,地方と都市部とのアクセスは改善してきています。これが近年の中国国内の格差縮小,地方発展につながっています。
日本も地方創生を考えるのであれば,都市とのアクセスをさらによくすることです。それにより,都市の発展の恩恵を地方に分配することが可能になるでしょう。
岡本信広(大東文化大学国際関係学部教授)
http://okmtnbhr.seesaa.net/
(編集部よりお断り;15日正午)筆者からの指摘により、文中のリンク先を差し替えました。