岩瀬大輔は「書く」ことで“仕事力”を磨く

アゴラ編集部

言論プラットフォーム「アゴラ」と世界的筆記具ブランド「モンブラン」とのコラボレーションでお送りするブランドジャーナル「NO WRITING NO LIFE」。ファイナル第10弾は、アゴラへの寄稿でもおなじみ、ライフネット生命保険株式会社社長の岩瀬大輔さんです。新社会人向けに仕事の心がけを説いた『入社1年目の教科書』(ダイヤモンド社)がベストセラーになるなど、若手のビジネスパーソンにも影響力がある経営者として注目されています。そんな岩瀬さんが歩んできたキャリアの中で「書く」ことがどのように位置付けられているのかに迫ってみました。(取材・構成はアゴラ編集部)
(※この企画はモンブランの提供でお送りするスポンサード連載です。)

プロフィール
岩瀬大輔(いわせ・だいすけ)

1976年生まれ。東大法学部在学中に司法試験合格。卒業後、ボストン・コンサルティング・グループなどを経て米ハーバード大学経営大学院に留学。2006年、日本人4人目となる成績上位5%で表彰され同大学院を修了。帰国後、出口治明氏とライフネット生命保険設立に参画し、副社長に就任。2010年には世界経済フォーラム(ダボス会議)で「ヤング・グローバル・リーダーズ2010」に選出された。13年よりライフネット生命保険株式会社代表取締役社長。

「書く」ことで思考を整理する


——「入社1年目の教科書」で「頼まれなくても議事録を書け」など、「書く」ことに関する提言も見受けます。どんなきっかけがありましたか
「議事録—」のくだりは、会議の要点を即座に把握し、課題やメッセージを提示できるなど自分なりの付加価値をつけることの大事さを説きました。ただ、「書く」という趣旨でいえば「質問はメモを見せながら」の方が合っているかもしれません。まずは自分で調べて理解できたこととわからない部分を認識する。つまり準備をしてから上司や先輩に質問するのが正しいと伝えたかったのですが、そのきっかけは25、6歳当時の上司です。僕を部屋に呼んで「お前に言いたいことがある」と話をする際に手元にメモを残してくださったのですね。それを見て、「すごく思考を整理してくれていた」というように丁寧に目をかけてくださった感じが伝わりました。

これは本でも書きましたが、お昼をご一緒したある先輩が「ライフネット生命にアドバイスがあるんだよ」とおっしゃって、A4用紙の3分の1くらいのメモ書きに、3つの助言を書いてくださいました。すごくシンプルなのですが、とても嬉しかったですし、記憶にも印象強く残りますよね。そうした出来事から、思考を整理すること、相手にきちんと伝えること、そして、言葉が紙に残されることで思考も残ることが大切だと思うようになりました。


手書きの原稿で息遣いや間を伝える


——普段はどんな感じでメモをされていますか。スマートフォンへの入力が多いご時世ですが
いまでもノートは持ち歩いています。思い付いたら、どんどん書き込んでいます。移動中にパソコンに入力するのは難しいですし、割と手書きでノートに書くことが多いですね。

——肉筆で書くのとパソコンやスマホで書くことの違いは意識されますか
人それぞれの好き嫌いではないかと思いますが、個人的にはお客様との打ち合わせの際には、目の前でパソコンに向かって打ち込むのはあまり好きではありません。実は僕自身は以前、本を出した時、原稿用紙に書いていたのですが、出版社の編集者から「岩瀬さん、原稿がうまくなりましたね」と褒めていただいたんですよ。その編集者の方の話では、句読点の打ち方がうまくなり、息遣いやテンポが変わったというのです。

同世代の有名小説家の友人は「デジタルでも肉筆でも変わらない」と言います。ただ、彼のような物書きは、きっと頭の中で書くことをデザインしているからこそ肉筆でもデジタルでも関係ないのかもしれません。でも僕はプロの物書きではないので、息遣いや間というものが、手書きであるかどうかで変わるのかもしれないと感じたことがありました。

——ライフネット生命と言えば、親子ほど年の離れた出口治明会長との創業で注目されました。社外でも、ベテランの経営者やエコノミストなどの年配の方と積極的に交流されているそうですが、「書く」ことに関して年上の方から学んだことはありますか
昔の上司が達筆でサラサラとお礼状を書く方でした。僕らの世代はあまり手書きをしませんよね。そういうのを見て、かっこいいなと思ったので、チャンスや余裕があれば手書きでお礼状を出すようにしています。逆に僕らのような「デジタル世代」だからこそ、ここ一番という時に手書きをすると、受け取る側も嬉しいですし、印象に残るのではないでしょうか。

思考が細切れの時代。本質的な文章を書くスキルを


——岩瀬さんといえば、ブログでの発信でも知られています。ハーバードの留学時代も書いていらっしゃったんですよね
留学している間は毎日ブログを書いていました。思考の整理と定着を図ったのと、将来の自分への手紙や備忘録として2年間必死で書き続けたことが大きかったです。あとはその時の感動を忘れないように残す意味もありました。

——いまの若い世代は、ブログですらまとまった文章を書くのが苦手らしいですが、彼らにアドバイスすることがあれば
ビジネスの局面で、ライティングスキルはクリティカルですよね。企画書を書いたり、メールを書いたり、書面で明らかに残して伝える場面は多いのです。ただ、その割に書く力にスポットライトが当たらないのですが、思考を整理して、紙に落とすことは必要です。結晶化された本質的な文章を書くのはビジネスマンとして不可欠な力。もっとみんな書く力をつけたほうがいいなと思います。

深呼吸してまとまった文章を書く大切さに気付いた


——2020年代以降もテクノロジーの発達でコミュニケーションのあり方も変わっていくとは思いますが、私たちが文章を書くことの意義は変わっていくと思いますか
音声入力の精度が向上したり、入力する作業は変わっていくでしょう。ただ、チャットアプリの時代になって短いメッセージをつい投げがちで、みんなの思考が細切れになっているのではないでしょうか。だからこそ、一度、深呼吸してまとまった丁寧な文章を書くことが大切になっています。

そう思うようになったのは、自分自身が一時期、コミュニケーションが雑になっていたと反省しているからです。一行のメールで指示を出してしまったり、忙しいとチャットみたいになってしまった時期があるのですが、それはよくないなと思うようになりました。最近はメールを書く際に深呼吸して、要件とともに「○○さん、よろしくお願いします」と書くようにしています。

——コミュニケーションを丁寧にしようと気づいたきっかけがあったのですか
先ほどお話しした小説家の友人とメールをやりとりしたときのことです。彼にメールを送っても返事が遅いんですよ。でも、よく考えてみると、「遅い」というのは僕らの感覚に過ぎません。手紙なら一週間後とか二週間後とかの返信が普通です。だから「3時間以内に返事しろ」という感覚の方が間違いじゃないかと逆に思うようになったんですね。もしかしたら、彼は意図的にそうしていたのかもしれませんが、相手のペースに合わせるうちに、落ち着いたコミュニケーションも必要なのではないかと感じたわけです。今は親しい人とのメールをやりとりする時でも、思いつくごとにチャットみたいな送り方をするのではなくて、一呼吸おいてまとまった文章を送るように心がけています。

取材を締めくくるにあたり、岩瀬さんに、世界的プロダクトデザイナーのマーク・ニューソン氏がデザインした「モンブランM」の万年筆を使ってもらい、「あなたにとって書くこととは何か?」を綴ってもらいました。(各写真をクリックすると「モンブランM」の公式ページをご覧になれます)