商社の社長交代において新社長の専門分野が将来的な成長分野を暗示する傾向があります。三菱商事は来年4月に垣内威彦氏が社長に就任しますが、氏は食糧畑が長く、「非資源の深堀」などとマスコミに書かれております。
多くの商社、特に三菱商事は過去、資源関連に傾注し、深い痛手を負いました。三井物産も双日も大なり小なり資源に拘わらなかった商社はなく、その損失処理に追われました。(いや、まだ進行形かもしれません。)
その商社が非資源を掲げてその頬先を転じた先は食糧であります。興味深い記事は2012年の丸紅によるアメリカの穀物メジャー、ガビロンの買収でありました。しかしながらその買収のニュースの華々しさとは裏腹に2015年3月期には500億円の減損の計上であります。あるいは三井物産が2007年から出資をしていたブラジルのマルチグレイン社に2011年には追加出資したものの2015年には売り上げ減から損失を計上しています。それだけではなく、キリンは3000億円を投じて2011年に買収したビール大手、スキンカリオール社の業績不振による損失、1140億円を計上します。買収額の4割がこれだけでもう消えるわけです。
人口が増え続けるこの地球において食糧危機がもう何十年も言われ続け、商社の思惑が食糧事業へ傾注したことは分かります。しかし、アフリカなどの飢餓は別として本当の意味の食糧危機は今のところまだ起きていません。それゆえ食糧の高騰も起きていません。同じことは資源でもいえましょう。いつかは枯渇すると言われる資源だからこそ、その取引に旨みがあると雄弁に語られてきましたが、誰がこの数年の資源価格の下落を想定したでしょうか?
資源も食糧も今のところ安泰なのは人間の英知が危機に陥ることを防いでいるのでしょう。食糧資源は遺伝子組み換え、水産に於ける養殖、家禽類もその成長を遂げています。確かに分野によっては一時的にその不足が指摘されるものもあります。中国が高度成長を果たした際、豚肉が足りなくなると騒がれたこともありましたし、コーヒーの消費量が爆発的に伸びているからコーヒー豆が高くなるとも言われました。しかし、我々が飲むコーヒーの値段は変わっていません。
資源も同様です。例えば自動車の燃費はこの20年でざっと5割改善しています。小型車ならば20年前はリッター15キロ程度だったものが今は24キロ近く走ります。これは人口が増えず、車の総販売台数が増えない日本に於いてはガソリンがそれだけ売れなくなったともいえます。日本は原油を買い、精製していますが、それが国内では全く消費しきれずに輸出をしているのです。皮肉なことに産油国で精製できないところもあり、それらの国に輸出するケースすらあります。
こう考えると従来型の商社の強みである資源、食糧は爆発的拡大が期待できるのかふと疑問になります。
一方、我々人間社会の生活には大きな変化が見られます。一つは平均寿命が伸び続けていること、そして医学の発展で不治の病に治療の道筋が出来、より健康的で元気な生活が長く楽しめるようになりました。また、数年のうちには車の自動運転やAIで人間が考えるよりもっと的確な判断を下し、それを代行してくれるような時代がやってきます。カラダに筋力のアシスト機器をつければ高齢者でもモノが持ち上げられ、もしかすると若者と同様にさっさと階段を上がり、歩行スピードを上げられるかもしれません。それは人類の生活の常識観を完全に覆すともいえます。
言い方を変えれば、商社のビジネススタイルがオールドエコノミーで経済の基盤を形成するとすれば2020年代にはニューエコノミーがその土壌の上で開花するそんな時代の変化が生じそうです。
人間はコンピューターに話しかけるだけでことが足りる時代が間近です。アップルのSiriもマイクロソフトのCortanaも人間がコンピューターとの対話を通じてより学習し、成長していくスタイルをとりますからスマホやパソコンがあなたのすべてを理解する友達となる時代すら訪れるのです。
そんな中、商社型オールドエコノミーは人間が人間として生きていくためのファンダメンタルズを提供する産業として君臨していくのでしょう。それに対して名もない多くの新興企業が驚くような技術を次々と開発し、それらをエンドユーザー向けIT企業が買収し、パッケージ型のサービスを生み出し、人々に新たなワクワク感や新体験を提供することになります。
私が就職活動していたころ、一流商社への道は厳しく、かつ、花形でありました。採用された人たちは一様に元気があってバイタリティが尋常ではなくて、世の中に遠慮という言葉はないというぐらいの積極性のある人たちの集団でした。今でも似たり寄ったりでしょう。
それに対して今、注目を浴びるのは緻密な頭と世の中の動きを先読み出来る人たちが作り出すテクノロジーであります。この二つの相反するものが刺激をし合いながら成長への足掛かりを作り続けることでしょう。
商社が生み出した○○部門出身という独特のキャリアが邪魔になる時代がやってくるかもしれません。もっとフレキシビリティをもって全く違う世界にチャレンジしていくことが商社の生き残りのキーかもしれません。
では今日はこのぐらいにしておきましょう。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 12月22日付より