2015年の日米スポーツ界を振り返って --- 鈴木 友也

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▲16年秋に開幕のBリーグはビジネス面でも注目される(公式サイトより、アゴラ編集部)

日本は新年を迎えましたが、日本より14時間遅いニューヨーク(米国東部標準時)はまだ大晦日の夕方です。例年12月は比較的静かな月なのですが、今年は年明け早々にリサーチの締切があったり日本からの来客があり、その準備などで珍しく大晦日までバタバタしています。

さて、大晦日ということで、今年1年を振り返ってみることにします。

■米国スポーツ界3大ニュース
業界秩序へのインパクトの大きさという視点から、以下の3つを選んでみました。

①大学スポーツに変質の兆し
ノースウエスタン大学フットボール部員による労働組合結成の動きはNLRBにより却下され(ただし、学生選手の労働者性そのものについての判断はしていない)、オバンノン訴訟の控訴審により第一審の判決内容が一部取り消さりしましたが、基本的にNCAAがその規約において「プレーの対価として報酬の受け取りを禁止する」こと(いわゆる「アマチュア規定」)は明確に違法(反トラスト法違反)であるという点は司法審査により確認されたのではないかと思います。

これにより、NCAAが「学生の本分は勉強」との建前を取りつつ金儲けにまい進している欺瞞が指摘された形になりました。今後は、NCAAが稼いだ富を学生との間でいかに分配して行くかという「How」の部分の詳細が議論されていくことになると思います。

これにより、大学スポーツビジネスのコスト構造や、大学スポーツの位置づけそのものが多かれ少なかれ変容することは避けられないのではないかと思います。

②DFSの隆盛と司法審査
これは最近日経ビジネスでも書きました。今年になり一気に存在感を高め、事業的にも大きく売り上げを伸ばしてきたDFS(デイリー・ファンタジー・スポーツ)でしたが、まさに「これから離陸」という時に、例のスキャンダルによってニューヨーク州により提訴され、司法審査を受けることになりました。

MLBやNBAが今年頭からスポーツ賭博合法化に舵を切っていることもあり、最終的にDFSも競馬などと同様に政府・自治体による「公認ギャンブル」として公的機関やスポーツ組織と共存共栄して行く形になるのではないかと思います。

しかし、DFS事業者はちょっと脇が甘かったですね。また、スキャンダルに乗じて一気に司法審査にまで持っていかれてしまったのは、裏で「DFSの合法賭博化」のシナリオを描いていた人が相当いたのではないかと穿って考えてしまいます(笑)。

③インナーマーケットのストリーミング開放
ここはちょっと分かりにくいかもしれませんが、RSN(ローカルスポーツ専門局)による試合中継が基礎になっている米国スポーツ界では、動画配信(テレビ+ネット)を「インナー・マーケット」(Inner Market)と「アウター・マーケット」(Outer Market)に分けて行っています。

例えば、MLBを例に挙げると、NYヤンキースとボストン・レッドソックスの試合がローカルでテレビ中継される場合、ヤンキースを放映権を持つYESとレッドソックスのNESNの放送が中継されるエリアを「インナー・マーケット」、それ以外の地域を「アウター・マーケット」と呼びます。

MLBでは、年間2430試合がテレビ中継されますが、うち全国放送が中継するのは約140試合に過ぎません。9割以上の試合はRSNによりオンエアされるのです。つまり、MLBのメディア露出を支えてくれているRSNはMLBにとって最も大切にしなければならないクライアントであり、この権利を守るために複雑な権利処理を行っているのです。

歴史的に、テレビのインナー市場からメディア露出は始まり、1990年代になるとExtra Inningsのようなテレビのアウター・マーケットパッケージが生まれ、2000年代にMLB.TVのようなネット中継のアウター・マーケットパッケージが生まれるという経緯で権利処理が行われてきています。

RSNの権利を守るため、インナーのネット配信は長らく開放されていなかったのですが、4大スポーツでは昨年からNBAがこれを「TV Everywhere権」としてRSNに開放し、来年からMLBも開放して行く方針を先日発表したばかりです。

日本だとまだ地上波テレビ局が良くも悪くも動画配信市場を独占してしまっているので、未だに「カニバライズ」の議論から前に進めないようですが、OTT事業者との競争が激しい米国では、既にカニバライズを議論するフェーズは終わり、OTT事業者への対抗上、TVE権を活用して包括的にユーザを囲い込む方向に来ています。

■日本スポーツ界3大ニュース
日々仕事をする中で感じていることを踏まえ、以下の3つを選んでみました。

①オリンピックバブル
僕のところもここ1~2年でオリンピック関係の案件が急に増えてきましたが、スポーツ界に事業的に参加してくるプレーヤーの顔ぶれも大きく変わってきたように感じます。言い方は悪いかもしれませんが、今まではスポーツ界に見向きもしなかった優秀な個人・組織にスポーツ界へ関心を持ってもらえるようになりました。

今のところ、この地殻変動を牽引しているのは公式スポンサー企業の存在です。少なくとも2020年までのあと5年間に数十億以上の投資を行っていくわけですから、このスポンサーマネーを見込んだ多くの事業者が参戦してきています。ちょっとしたバブルの様相ですね。

逆に、ちょっと気になるのは、こうした祭りへの盛り上がりを見せているのは、アウトサイダー側に多く、スポーツのインサイダーが少し冷めている(乗り遅れている?)と感じる点です。むしろ今までの業界経験がない新規参入アウトサイダーの方が、客観的に日本スポーツ界のオポチュニティを見ることができるのかもしれません。

②球団と球場の一体経営の常識化
最近もベイスターズが横浜スタジアムにTOBかけたりするなど、球団と球場は一体経営であるべきという点が日本でも常識になってきました。見方を変えると、収益を追い求めて経営努力している球団とそうでない球団の差がここ5~10年で大きく開いてきてしまったようにも見えます。

日本のスポーツ界では、経営体力的に一番余裕のあるプロ野球球団がこの動きを牽引していますが、これがJリーグやBリーグなどにも広がっていくとよいと思います。

その中でネックになるのが多くの球場を保有する自治体のスタンスでしょう。日本の公的スポーツ施設は「体力増強」のために建設されているという建前上、エンターテイメントとしての利用を想定していません。こうした中では、ガンバ大阪のように球団自身が球場を作ってしまうような発想力や行動力が必要になってくると思います。

③B.LEAGUE設立
すったもんだあった日本のバスケ界がようやくまとまり、新リーグが立ち上がったのは皆さんご存知の通りです。

日本だと、野球とサッカーが事実上の2大プロスポーツリーグということになります。2nd Tier以下には、競技により実業団やアマチュアリーグなどが存在しているわけですが、Jリーグの成功があったからか、そうした競技の関係者と話していると「うちもプロ化できればうまく行くはず」という、盲目的な思い込みを感じてしまうケースがあります。

ただ、いままで実業団あるいはアマチュアだったのをプロ化するということは、サラリーマンが会社を辞めて起業することに等しいわけですから、そんなに生易しい話ではありません。むしろ、実業団という形ででも競技が存続していること自体を有難いを思うべきなのかもしれません。

そんな中、Bリーグには確固とした戦略が描かれています。B2Cにおける競技者DBとの連携や、B2Bにおける日本代表チームとのマーケティング活動の統合などは、プロ野球やJリーグでも未着手の領域です。事務局の人間に知人が多いということもあり、是非今までの日本スポーツ界になかったような斬新な取り組みを期待したいです。

ということで、勝手ながら日米スポーツ界の2015年3大スポーツニュースでした。
皆さん良いお年を!


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編集部より:この記事は、ニューヨーク在住のスポーツマーケティングコンサルタント、鈴木友也氏のブログ「スポーツビジネス from NY」2016年1月1日の記事を転載させていただきました(画像はアゴラ編集部で担当)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はスポーツビジネス from NYをご覧ください。