いま日本の税収は国の一般会計100兆円の半分しかなく、毎年50兆円ぐらい国債を発行しています。これを増やして100兆円の予算をすべて国債でまかない、それをすべて日銀が買えば、税金はゼロにできます。夢みたいな話ですね。驚いたことに原田泰さんという日銀の政策委員もそう言っています。
会社の借金は毎年の利益で返すので、利益で返せなくなったら会社はつぶれます。国の場合は税金で返すので、借金を返す税金をとれなくなったら、財政は破綻します。しかし国の場合は税金の足りない分をお札を印刷して返すことができるので大丈夫、というのが原田さんなどの理屈です。
おまけに国債を日銀がすべて引き受けてお札をどんどん発行するとインフレになるので、国の実質的な借金がへります。たとえば1000兆円の借金は、2倍のインフレになったら500兆円にへるわけです。日本も終戦直後、100倍以上のハイパーインフレで戦時国債を踏み倒しました。
原田さんなどは、こういうインフレを「インフレ目標で止める」といっています。しかしインフレ目標は、日銀が金利や通貨供給で調節する目標です。国債を返す税金がなくなって起こるインフレは財政破綻が原因ですから、日銀にはコントロールできません。
インフレが起こると人々は円を売ってドルや金(きん)などの実物資産を買うので、さらに円が出回ってインフレが加速します。たとえ日銀が通貨の発行を止めたとしても、市中にはすでに100兆円以上も日銀券が出回っているので、それが何回転もしてインフレはどんどん加速します。
これによって金利が上がります。今は預金の金利はゼロですが、10%のインフレになると金利も10%以上でないと預金してもらえないからです。国債の金利も上がるので、今までに発行した国債が暴落します。新しい国債の金利が10%になると、0.3%で発行した国債は売れないので、時価が下がるのです。
金利が上がるとインフレも加速し、みなさんの所得も資産も目減りします。つまりそれはインフレ税という課税なのです。今は世界的な低金利なので助かっていますが、アメリカなど世界の金利が上がると、日本国債の金利も上がるおそれがあります。
会社も国も、返すあてのない借金を永遠に続けることはできません。会社は利益の限度までしか借りられないし、国は税金の限度までしか借りられません。そして国の借金は――どんな形にせよ――みなさんの世代の重い負担になるのです。