元旦各紙一面まとめ&メディア受難の年を予感の巻

どうも新田です。あけましておめでとうございます。今年も元旦の新聞各紙一面は、それなりに「特ダネ」がそろっておりました。そのざっくりした内容のおまとめは後述いたしますが、元旦の特ダネは一年間のニュースの中でも特別です……なーんて、言われても、紙の新聞を取っておらず、スマホでスマートニュースやLINE NEWS経由で主にニュースを読んでいる10~30代の皆さんには「何が日頃の一面と違うの~?」と思われそうです。
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▲別刷り付きで一般紙は分厚い元旦紙面(都内コンビニにて、筆者撮影)

元旦一面はどんだけ特別なの?


まあ、拙著「ネットで人生棒に振りかけた!」でも書きましたが、キュレーションアプリ全盛時代になると、肝心のニュースのネタを提供している新聞各社のどの記事が紙の一面を飾る特ダネ記事だったのか、読者視点では判別しづらいのは当然です。まあ、改めて元旦各紙の一面の意義について、池上彰さん的に「そもそも」論から申し上げると、元旦の新聞は1か月程度をかけて特ダネ候補のネタは社内でもオーディションし、年間でも集中的に気合を入れて作ります。

そういうわけで歴史的な特ダネもありまして、新聞業界で語り継がれるレジェンドネタとしては、読売新聞が1995年元旦一面で「上九一色村でサリンの残留物質が検出された」と放った事例ですね。これは結果的に2か月後の地下鉄サリン事件の予見となり、当時、オウムを極秘捜査中だった警察庁幹部を震撼させたとも言われるんですが、いまの大学生はサリン事件の頃に生まれたかどうかなので、その凄さが今ひとつ伝わらないのは時の経過が成せる厳然とした現実です。

在京6紙の2016年一面は?


前置きはここまでとして、在京6紙一面特ダネのご紹介と寸評。
<朝日>

首相、衆参同日選も視野
安倍晋三首相は2016年夏に行われる参院選と同時に衆院選を行う衆参同日選も選択肢に、今後の政権運営に臨む考えだ。高い内閣支持率を維持できていれば、同日選で投票率を上げ、将来の憲法改正をにらんで参院の獲得議席を上積みする狙いがある。自民党内では、同日選を見据えた発言が出始めている。

 

※寸評 時の総理が解散の方針を固めたことを最初に書くのが政治部記者が目標とする特ダネのひとつですが、「視野に入れている」というあたりが踏み込みが弱く、目新しい話はありません。

<読売>

数研出版も教科書謝礼…中学校長らに
中学校と高校の教科書を発行する「数研出版」が数学の中学教科書への参入を前にした2009年頃から、教科書への意見を聞いた謝礼として公立中学の校長らに1回あたり最高5000円の図書カードを渡していたことがわかった。各地の中学校長らをリスト化して中元や歳暮も贈っており、贈り先には教科書選定に関与した人もいた。文部科学省が禁じる検定中の教科書を見せたケースもあった。校長らへの謝礼問題では三省堂のケースが判明しており、教科書選定を巡る学校現場と教科書会社の関係を抜本的に見直す必要がありそうだ。

※寸評 ここ最近問題になっている教科書選定に関する問題で、社会面でも関連記事を書く力の入れようなのですが、かつてのサリン残留物検出や、政府による尖閣私有地の借り上げ&事実上国有化(2002年)のようなサプライズには欠けます。

<毎日>

改憲へ緊急事態条項 議員任期特例 安倍政権方針
安倍政権は、大規模災害を想定した「緊急事態条項」の追加を憲法改正の出発点にする方針を固めた。特に衆院選が災害と重なった場合、国会に議員の「空白」が生じるため、特例で任期延長を認める必要があると判断した。与野党を超えて合意を得やすいという期待もある。安倍晋三首相は今年夏の参院選の結果、参院で改憲勢力の議席が3分の2を超えることを前提に、2018年9月までの任期中に改憲の実現を目指す。

 

※寸評 憲法改正を見据えた安倍政権の衆参同日選模索を占う中で、興味深いネタです。2面の解説記事には“お試し改憲”への警戒感が行間に滲み出てますが、読売が書きそうなネタなのに毎日に出たのは、記者の力量か政権の思惑なのか面白いところです。

<産経>

マイナンバー 運営システムに欠陥 機構、原因開示を拒否
マイナンバー制度の運用が始まる中、カード発行を担う地方公共団体情報システム機構のプログラムに誤りがあったことが31日、分かった。システム不備が確認されたのは初めて。関係者が明らかにした。東京都葛飾区のマイナンバー通知カード約5千世帯分が未作成だったにもかかわらず、機構のシステム上では正常終了と認識されていた。機構は誤りを修正したが、区に対し具体的なミス原因の情報開示を拒否。総務省は本体カード配布で同じミスが発生することを危惧してシステムの再点検を指示したが、機構の隠蔽(いんぺい)体質が早くも浮き彫りになった。

 

※寸評 産経は行革をテーマにした新年連載を同時開始しており、おそらくその取材過程でキャッチしたネタ。区役所の関係者あたりのリークのようにも見えますが、独自の切り口で発掘した点では調査報道「的」な要素もあって価値のある特報ではないでしょうか。

<日経>

ANA、超大型機導入
ANAホールディングスは欧州エアバス製の超大型機「A380」3機を国内勢で初めて導入する。発注規模は定価ベースで約1500億円。国内線は人口減で頭打ちとなっており、国際線の拡大に向け大型投資に踏み切る。2018年度にハワイ路線などに投入する見込み。1座席当たりの運航コストが低い超大型機の就航により、人気の太平洋路線で運賃競争が激しくなりそうだ。

※寸評 一面トップは連載記事に譲渡。企業による「日経リーク」の定番形で面白みなしですが、日本の航空業界的には初の「超大型機の大型購入」とあってニュース性高い!?

<東京>

防衛装備庁、中古武器輸出を検討 周辺国の軍備増強に懸念
国産の中古武器を無償や低価格で輸出できるようにするため、防衛装備庁が法整備を検討していることが分かった。武器輸出を原則認めた二〇一四年春の政策転換を受けて進む輸出の仕組みづくりの一つ。同庁装備政策課は新興国を念頭に「関係を強化して安全保障環境を安定させる上でも、新たな法整備は必要だ」とするが、「日本周辺国の軍備増強を助長する」と懸念する声もある。

 ※寸評 えー、「日本型リベラル」文脈で取材・読み解くとこうなります(苦笑)。

「メディア受難の年?」を予感させた2016年元旦


世間を震撼させるほどだったかどうか、皆さんの印象はどうでしょうか。新聞業界的には「平年並み」と解釈する向きもあるかもしれませんが、今年は政府が軽減税率を日刊紙に適用することを決めただけに、「民主主義社会の維持・発展や文化水準の向上に大きく寄与」(軽減税率適用を求める新聞協会の15年特別決議)しているのかどうか、軽減税率適用後は、国民に納得してもらうだけのクオリティーが求められる可能性もあります。

奇しくも今年の元旦は、朝日の資本が入ったハフィントンポスト日本版で、総理と山本太郎の年末の過ごし方をこれ見よがしに比較する露骨な印象操作記事が出たかと思いきや、夜になって大晦日に放送された朝生で、「民主党時代より良くなった」と発言した“一般人”の建築板金業のおっさんが実は自民党の大田区議だったことが発覚したりと、年始からネット上で物議を醸し続けたのが、なにか象徴的。4日からの通常国会を機に、軽減税率の議論に「社会の公器」としてのメディア論も絡んできそうで、2016年は伝統メディアにとって試練といいますか、一歩間違えれば「受難の年」になるような予感もしてきました。ではでは。


新田 哲史
アゴラ編集長/ソーシャルアナリスト
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ネットで人生棒に振りかけた!: 先の読めない時代の情報版「引き寄せの法則」
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