中央が橋本久美子氏(橋本龍太郎元首相夫人)、右から3番目が発地氏。
「おもてなし」とはお客に対する心のこもった接待やサービスのことを指します。2013年の国際オリンピック総会のプレゼンテーションで、滝川クリステルさんが「お・も・て・な・し」と発言したことから、この言葉は日本のサービスを体現する表現として瞬く間に世界中に広まることになりました。
今回は、おもてなしの精神を理解するために、「ほてる木の芽坂(新潟県六日町)」、代表取締役女将・発地満子氏に話を伺いました。
●私たちがホスピタリティ教育をはじめた理由
—おもてなしの精神とはどのようなものでしょうか?
発地満子氏(以下、発地) 「サービス」「接客」「ホスピタリティ」「おもてなし」、すべて似たような言葉ですが、どのような違いがあるのでしょうか。まずサービスは、英語で「奉仕する」という意味があります。接客は人が人に対しておこなうことなのでサービスに包含されると考えることができます。
ホスピタリティ(Hospitality)は直訳すると接待、歓待、厚遇を意味します。語源を調べると、元々はラテン語でありHospitalityがHospital、Hotelに変化していったとあります。また、ホスピタリティには「主人と客人が食事などを通して連帯やきずなを育むこと」の意味がありますので、おもてなしに最も近いと考えることができます。
—独自のホスピタリティの事例があれば教えてください。
発地 新潟県は観光業が盛んです。国立公園が多く、中越地方と上越地方の山間ではスキーが盛んです。当ホテルがある南魚沼市は新潟県の中越地区にあり米どころとして有名です。コシヒカリの収穫量は日本一で「魚沼産コシヒカリ」として定着しています。
これは、先代社長(故発地信博氏)が地元観光協会の理事長をしていたことも影響しているのですが、ホテルのサービスレベル向上のためにはホスピタリティ教育が重要であると考えております。その一環として、東京の障害者支援団体であるアスカ王国(橋本久美子会長・橋本龍太郎元首相夫人)の活動を2000年から受け入れています。
●日本型ホスピタリティの確立を目指す
—障害者支援をはじめたきっかけを教えてください。
発地 それぞれの国や文化、風習などに基づいてサービスは形成されていくものです。多くの日本人は日本的なサービスに満足を感じます。お客さまを全員でお迎えしたり、お見送りの際には見えなくなるまで手を振ったり、エレベーターの前で深々とお辞儀をして案内したり。また宴会場であれば、スリッパはキチンと並べて全ての方向を整えたり、売店であればタグの方向性や置いてある角度を整えたりします。これは日本でなければ見られないサービスです。
海外ではサービスの物質的な部分に重点が置かれるはずです。例えば、今日はバースディだといえば特製ケーキが用意されたり、求められれば従業員が歌を合唱したり、アーリーチェックインやチェックアウトの時間が延長されたりします。逆にこのようなサービスは日本ではなかなか浸透しません。そもそも、それぞれの文化や風習が異なるわけですから、どちらが優れているかを一概に比較することなどできません。
しかし、海外でも日本でも共通しているのは、弱者を優先するという姿勢です。身体障害者、乳幼児、妊婦などがお客さまの場合には、少しでも過ごしやすい時間を設けられるように最善を尽くすものです。おもてなしの精神を根本的に突きつめて、ホスピタリティの意識を高めるために、障害者支援をはじめました。
—どのような効果がありましたか。
発地 まず、活動を継続するなかで、地元との関係性が強化されることに気がつきました。定期的に開催する大衆演劇などでは地元福祉施設や特別支援学校を招待するなどして、地元との関係性が強化されています。いまでは、他の障害者団体の受け入れも可能となりました。
一方、バスの乗車移動などに時間がかかるため大雪の年などは移動におけるフォローが難しいことがありました。また、大人数の場合には料理の量などの調整が難しくなります。これらはオペレーションの問題なので、経験をつむなかで解決していきましたが、従業員の入れ替わりなどがあるとゼロベースで対応しなくてはいけません。今後は、培った運営ノウハウを、上手く蓄積して共有できる仕組みを考えたいと思います。
—ありがとうございました。
日本は精神を重視する国です。精神面での安心や安らぎを与えることでホスピタリティを高めることができます。オリンピックの開催も決まり、注目が集まるいまこそ、世界中の人々を満足させられる日本型ホスピタリティの確立が必要ではないかと思います。
尾藤克之
経営コンサルタント