▲なぜ「予算」と関連の薄いSMAP騒動が質問になるのか?(首相官邸サイトより、アゴラ編集部)
1月4日に通常国会が始まり、国会での審議に関するニュース報道を目にすることも増えてきました。2016年度の国の予算を審議し、決定するための国会なのですが、実際に予算に関することは、どのように審議されているのでしょうか?
皆さんが国会といって思い浮かぶのは、きっと「予算委員会」だと思います。ニュース番組で少人数の会議室みたいな場所で、パネルを使って質問する議員さんと、マイクの前で答弁する総理や各大臣の姿は見たことがあるのではないかな、と思います。
予算委員会のニュースといえば、安倍首相がSMAPの存続に関してコメントをしたり
参考:安倍首相「SMAPの存続よかった|NHKニュース」
UFOの存在について防衛大臣が答弁したり、
参考:アントニオ猪木議員 UFOに関する質問を投げかけ防衛相が困惑|ライブドアニュース
馳浩文科大臣とアントニオ猪木参議院議員が国会討論で師弟対決など、
参考:馳浩・文科相とアントニオ猪木氏、23年ぶり「激突」 卍固め繰り出す?|ハフィントンポスト
芸能に関する時事問題や、人間関係などで話題になるようなことも予算委員会での質疑のやり取りからニュースになったものです。この記事だけを見ると本当に国のことを話しているのか、分からないですね。
その他にも例えば、大臣が下着泥棒をしたのではないかといった大臣に対する週刊誌のような疑惑を審議したり、はたまた安倍首相のパートで月収25万円の例え話や拉致問題を政治利用していたなど、ひと昔前には、漢字に関する読み方のクイズや憲法に関するクイズを行うといった、ある意味で粗探しを行ったり、多くの野次が飛び交っているのが見受けられる場所となっています。
このように予算委員会と言いつつも目にするのは、国の予算について真剣に話し合いをしているというよりも、話題となっていることに関して話をしたり、政策の不備を問いただすもの、粗探し、批判合戦、大臣や与党議員の疑惑に関することであったり・・・
むしろ予算については話し合われているのでしょうか?
よく目にする機会は多いのに、予算委員会の役割についてはあまり知られていないので、少し日本の予算委員会とそれに伴う制度について書いていきたいと思います。
全員で話し合いをすると時間がかかる。ではどのように決めるか?
国会議員は衆議院475人、参議院242人いますが、全員が1ヶ所に集まって1から10まで議論すると膨大な時間がかかってしまい、150日間ある通常国会とはいえ、効率的ではありません。そこで、日本では「本会議」と「委員会」に分けて審議・採決を行う方法をとっています。
まず最終決定として重要なのは、国会としての意思決定を「本会議」と呼ばれる総議員の3分の1以上の出席で開かれる各議会の議員全員の会議・採決で行い、そして本会議で決定する前に専門的かつ詳細に審査を行う予備的な審査・議論を行う場として、「委員会」というものを設けています。
本会議においては各議会の議員全員で採決を行うのですが、実質的に重要なのは政府や議員が提示した予算案や政策・法案に関して質疑・修正を行い、さらに討論する場所としての委員会なのです。
これら委員会を重視した議会の制度のことを「委員会主義」といい、日本は委員会主義を採用しているために、本会議で質疑や討論を行いますが、時間・質問回数の制限が厳しく、ほとんど儀式化しているので、本会議は採決を行う場となっているのです。
予算委員会の役割とは?
では、委員会を重視しているならば、どのような委員会が存在しているのでしょうか?
委員会には、常設され継続的に審議を行う常任委員会と特に必要があると認めた場合や特定のことを話し合う特別委員会があります。
常任委員会は、「内閣、総務、法務、外務、財務金融、文部科学、厚生労働、農林水産、経済産業、国土交通、環境、安全保障、国家基本政策、予算、決算行政監視、議院運営、懲罰」の17委員会があり、各定員は20~50人程度で、国会議員は少なくとも1つの委員になることになっています。
特別委員会は、時々で違うのですが、現在(2016年1月開催)の第190回国会の衆議院では「災害対策、政治倫理の確立及び公職選挙法改正、沖縄及び北方問題、北朝鮮による拉致問題等、消費者問題、科学技術・イノベーション推進特、東日本大震災復興、原子力問題調査、地方創生」の9委員会で審議が行われています。
今まで挙げてきた委員会の中でも、特殊なのが「予算委員会」です。各委員会で話し合う事項は各省庁に関することなど明確に決まっているのですが、実は予算委員会だけは、話し合う事項は一言「予算」とだけ書かれています。
国の運営していくために非常に重要なことを審議する委員会のはずが、予算というある意味で分かりやすく、逆に抽象的な一言で示されているのも面白いのですが、これによって「予算」に関連することであれば、どのようなことでも質疑可能となってしまったのです!
また予算の支出に関して具体的な指摘をしたとしても内閣・大臣・そして実際の予算案を作成している省庁の官僚の方々は綿密に答弁することができますし、討論の材料も多くありますが、野党ではそれらの資料が乏しいので上手いことかわされてしまうということもあり、実際の予算ではなく、内閣を揺さぶる質疑を行うことになってしまったという説もあります。
予算委員会は委員会の花形?
予算委員会は他の委員会と違う点がもう一つあります。それは、お昼ごろにNHKが中継を行うということです!テレビ中継が行われることによって、よりバラエティのように政党のイメージ合戦の様相となり、それによって不祥事に関することや批判、そしてイメージ戦略として、テレビ番組のようにパネルを使った説明を行うようになりました。これにより次の選挙のために、自分のたちの政党の考えを国民に示し、内閣の悪い点をあぶり出すという国会戦略がとられるようになりました。
アメリカの政治学者ポルスビーは、このような議会の役割に着目し、2つの類型を提示しました。
1)アリーナ型議会:選挙を意識して、争点を明確にして政策の優劣を争う場や自党の考えを国民に知らしめる場としての議会。(例:イギリス)
2)変換型議会:国民の代表である議員が議会において政策立案を行ない、その中での討論結果として法案の修正が行われる場としての議会(例:アメリカ)
この類型に当てはめると、予算委員会では政策や法案の修正が行われず、実際に行われているのは自党のアピールや与党への批判、そして多くの野次といったイギリスのようなアリーナ型議会に近いものがあります。実際、イギリス議会は与党と野党が面と向かって、立ち上がって野次を行う議員が多くいる中で、討論を行うというかなり壮絶な光景です。
しかし、アピール合戦や批判、野次が横行する予算委員会に対しての批判やそれに伴う政治への不信感や呆れがあるのも事実です。
日本独自に進化した予算委員会は、自分たちのアピールの場としてはテレビ中継もあるので最適な場所ですが、逆に本当に政策のことを話し合っているのか?という政治への不信感として国民にアピールしてしまっているのかもしれません。これからは正しくアピールして頂きたいと思います。
渋谷 壮紀
1988年鳥取県生まれ。東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程在学中。専攻は政治意識・行動分析、実験政治学。研究テーマは政党公約分析、有権者選好のマクロ分析、熟議民主主義の実証研究など。学部時代にWebサービス開発の経験あり。
編集部より:この記事は、選挙ドットコム 2016年1月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は選挙ドットコムをご覧ください。