アベノミクスで労働の「量」は改善も「質」は改善せず --- 玉木 雄一郎

アベノミクスが成功しているという割には、実質賃金の低下傾向が止まらない。安倍総理は、その理由として、よく次のような説明をする。

つまり、景気が良くなると「そろそろ働こうかしら」と思って、パートなど賃金の低い労働者が働き始めるため、労働者全体の平均賃金は低下すると。

一方、就業者の数は増えるので、労働者全体に支払われる報酬の総額である「総雇用者所得」は増加する。総理は、こうした「本質」をよく見ろと胸をはる。

例えば、2015年2月4日衆議院予算委員会で次のように発言している。

「…減ってしまうという現象がまさに今起こっているのがこの実質賃金の説明であって、ですから、総雇用者所得で見なければいけない。…総雇用者所得、いわば働いている人の全員の稼ぎ、ここで見れば、これはずっと上昇していることは申し上げておきたい。」

もっともらしい説明にも聞こえるが、本当だろうか。

まず、実質賃金は約2年近くにわたって減少し続けている。ここ数か月、やっと上昇に転じていたが、最新2015年11月の数値は0.4%減で再びマイナスに逆戻りしている。

一方、労働者全員に支払われる報酬総額である総雇用者所得(実質)はどうか。総務省統計局の数字を見てみる。

興味深いのは、総理発言の印象とは異なり、2005年の数字を100としたとき、民主党政権下の2010年から2012年までの3年間の平均値は102.4、安倍政権下の2012年から2014年までの3年間の平均値は102.3であり、安倍政権になってむしろ実質総雇用者所得は微減となっているのだ。

2012年から2014年の安倍政権における変化を見ても、102.6から101.6へと減少している。いずれにせよ、アベノミクスで総雇用者所得が着実に増えている姿は、データの上からは見て取れない。

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確かに、安倍政権になって就業者数は増加し、いわば「量的」には、労働環境は改善したかのように見える。その一方で、労働の中味、つまり「質的」にはどうだろうか。

まず、就業者数が増加した(145万人)と言っても、その大部分(142万人)は、賃金の安い非正規労働の増加であり、加えて、大規模な金融緩和による物価上昇によって、実質賃金は低下。そして、実質総雇用者所得も減少している。

働く人の総数は増えているのに、労働者全員に支払われる報酬総額は増えず、実質賃金も低下傾向。これは一体、何を意味するのか。

要は、一人一人の暮らしが、むしろきつくなっているということだ。もっと分かりやすく言えば、これまでは夫の給料だけで生活できていたのに、今は妻もパートで働かなければ、以前と同じ所得を手にすることができなくなっているということではないのか。

少なくとも、総理が言うような「景気が良くなったから、そろそろ働こうかしら」といった呑気な姿を見てとることはできない。

安倍総理には、都合のいい数字だけをつまみ食いしたり、アベノミクスの成功を喧伝するような説明をするのではなく、雇用や賃金の実態にもっと深く向き合っていただきたい。

雇用の改善は、与野党を超えた課題であり願いである。

私たちも、国会論戦等を通じて、労働の「量」とともに、労働の「質」の向上につながる政策を提言していきたい。

同一労働、同一賃金の実現は、その第一歩である。


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編集部より:この記事は、衆議院議員・玉木雄一郎氏の公式ブログ 2016年1月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。