ネットで音楽の接し方はどう変わったの?(中) --- 中村 伊知哉

80年代に生まれたデジタル世代、90年代に生まれたネット世代は、CD以降、iPod以降、ケータイ以降、ネット以降、の音楽をどう聴いてきたのでしょう。ぼくのような60年代生まれのアナログ野郎とどう違うのでしょう。

ぼくのゼミには2000年代生まれのソーシャル世代はまだいませんが、デジタル・ネット世代は大勢いるので、音楽との関わりの変化について聞いてみました。

彼らの体験はほぼ共通しています。90年代後半にレンタルCDからMDに録音し、2000年ごろからはNapsterにmp3プレイヤー、それからiPodとiTunes、さらにはYouTubeとスマホに移り、今ストリーミングを試している、といいます。

それで、接し方はどう変わったのか。まず、アルバム単位から曲単位になったと言います。というより、アルバムという概念がありません。「ジャケ買い」もなくなったそうです。音楽を買う頻度と金額は激減したとも言います。
 
系統的に聴く、という感覚もなさそう。ぼくらは系譜で追っていました。ストーンズを学んでツェッペリンやグラムに行き、煮詰まってパンク、みたいな。だけど彼らは、全ての系譜、全ての歴史が洋モノも和モノも同時・水平に手に入っていて、大御所もストリートもフラットで、自分が接し得た、これイイよね、というものをフラットに聴く。全体像や相関を知っていないと不安という貧しいぼくらと違って、実にうらやましい。
 
全員が音楽との距離が「近くなった」と言います。音楽との関わりは「深くなった」という人もいれば、「カジュアル化した」というやつもいます。好きなアーティストをどんどん深掘りして、同じジャンルの曲を追い求めるようになったという人がいる一方、タダでAKBと嵐ばかり聴くとか、聴き放題でラジオ的に流すだけになったというやつもいるのです。
 
多様化ですね。アーティスト主義のひとは今もCD派で、サブスクリプションは不要というし、多くの音楽を求める人は新しいサービスに飛びつくし、そもそも聴かない人も、キュレーションやバイラルメディアで音楽に接する機会が増えた、という。

決定的な変化をもたらすのは、デバイスよりもSNSのようです。
楽曲やミュージシャンを知る機会、接する機会が増えた。友だちやフォローしている人の好みをシェアすることで、アーティストについて広く知るようになった。

CD、MD、iPadまでは音楽に無関心だったが、SNSで初めて聴くようになり、ライブにも出かけるようになったという者もいます。情報の共有と拡散で音楽に接近して、それがリアルの場に足を運ぶまでになっているのです。
 
デバイスが変わっても、聴き方も距離も変わらないけれど、音楽が媒介するコミュニケーションが大きく変わったという人もいます。

「音源がCDやカセットテープという物理的に縛られたデバイスからオンライン上にデータとして解き放たれたことにより、土地や時間を問わず多くの人にリーチするようになり、体験をもっと広い範囲の人と共有できるようになりました。ベルリンのライブハウスでヨーロッパ中から集まった日本語出来ない現地ファンと一緒に日本語で紅を合唱するとは、LPレコードとしても発売されていた1988年には誰も思わなかったことかと思います。」(ある学生)

「音楽とコミュニケーション」がポイントです。それは、音楽というコンテンツを軸として、コミュニケーションとコミュニティが活性化するソーシャルな現象。

アーティストとファンとのエンゲージメントと、ファン同士の絆を強めるという、音楽の「消費」から音楽の「共有・参加」への移行とも言えましょう。
(つづく)


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年1月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。