日本の三大税収といえば所得税、法人税、消費税であります。特に所得税と消費税が毎年の状況で1位、2位が変わり、それに法人税が遅れてついて来ています。額で言うと2016年度予算では所得税が18兆円弱、消費税が17兆円強、法人税が12兆円強であります。
2016年からマイナンバー制度で所得税の補足がより高まる一方、2017年に消費税引き上げがあれば消費税収も伸びそうです。法人税はこのところの景気回復で昨年予算よりも1兆2000億円程上乗せされていますが、今後法人税率引き下げや円高による企業業績の下振れが懸念されるところでしょう。
ではそれ以外の主な税収をみると揮発油税が2兆4000億円、相続税が1兆9000億円、酒税1兆4000億円、関税1兆1000億円などとなっています。三大税収と比べて一ケタ違うレベルだということにお気づき頂ければと思います。
その相続税は80年代後半は8000億円足らずでしたがバブル経済の結果、90年代初頭にグッと伸び、93年に2兆9000億円に達します。これをピークにその後、下げ続け2009年には1兆2000億円台まで下落。ようやく上向きに転じて今に至ります。
相続税は税制が2015年1月に大きく変更され、控除のバーが4割ほど引き上げられました。少子化にこのところの不動産価格の上昇、株式市場の好調ぶりで相続税収はぐっと伸びるかと思いましたが2014年と比し、ほとんど変わっていません。2016年度も15年比で1600億円程度上振れがあるとみている程度です。
この先数年の推移をみないと結論は述べられませんが、思った以上に伸びていない相続税という感じがします。その理由の一つに相続税対策がブームのようになったことが挙げられましょう。書店には相続税対策の本やムック本、雑誌の特集が並びました。その多くは不動産を使った節税の指南であります。
日本の場合他国と違い海外へ資産を分散化するという手法はほぼ使えません。理由は本人が海外に住んでいてもその家族が日本にいる限り意味がないからです。悪い言葉を使えば一族郎党「棄民」するなら相続税を逃れられるかもしれませんがそこまでする人は少ないでしょう。
現金や株式、生命保険は控除がないか、取りにくいものばかりです。よって否が応でもその対策次第では大きく変わる不動産に走るということになります。24日の日経トップに「マンション節税防止 相続税、高層階の評価額上げ 」とあり、2018年よりマンション節税の仕組みを変えるべくマンション高層階の評価額を引き上げ「相続税対策の対策」を行うようです。
私は正直馬鹿馬鹿しい話だと思っています。相続税で取る方も取られる方もここまでシャカリキになる先進国は日本だけです。それだけ頑張っても税収では1兆9000億円です。では、日本で相続税が無くなったらどうなるでしょうか?私は社会が変わると思います。そして面白い国が出来ると思っています。
金持ちのメンタリティは「もっと儲けたい」なのですが、どうやったらもっと増やせるかといえば一般的な株式投資からエンジェル投資など自分でリスクを取りながら投資をしていく行動に移りやすくなります。これは持てる者の心理で安全に年1-2%のリターンを求めるよりも多少ハイリスクハイリターンに資金を振り向けるようになるのです。
そうすれば日本国内で様々なところに資金が回る可能性が高くなり、起業が進む可能性があるのです。
私は財務省が本当に考えなくてはいけない仕組みとは不動産に対する課税強化に対して株式投資に対する控除を大幅に増やすことではないかと思っています。特に未上場の第三者の会社などへの投資に対しては大幅な控除額を設定することでマネーが還流するように仕向けなくていけないと思います。
日本の役人がなぜこれに気が付かないのか不思議でしょうがないのですが、アメリカなどでエンジェル投資家が多いのは持てる者が投資をすることでより社会に刺激が与えられるからでしょう。それにもかかわらず、日本では相変らず不動産の節税スキームに固執する世界が良く分かりません。
確かに戦後直後日本の持ち家率は低く、世界基準に達する為に持ち家を促進しました。その名残で住宅供給を促す税制が多々残り、その中の一つがこの相続税に関して住宅への控除の発想であります。しかし、日本では今や空き家が有り余っている状態でなぜ、更に住宅開発を促進させるのでしょうか?地震大国なのに50階建てのマンションがなぜ必要なのでしょうか?高齢化社会なのに災害時に高層マンションからどうやって脱出するのでしょうか?
ボトムラインとして相続税でどれだけイタチゴッコのようなことをし続けても3大税収の10分の1程度しかないのなら、それを別のポジティブな形に転換する発想に変えるべきかと思います。税務署の仕事が減るからこう言うことはしないのでしょうか?しかし、日本にも夢がないといけません。3世代で財産が無くなる仕組みが必ずしも正しいとは思えません。
では今日はこのぐらいで。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 1月26日付より