中国が“中東”外交に目覚める時 --- 長谷川 良

中国の習近平国家主席は今月19日から23日までサウジアラビア、エジプト、そしてイランの中東主要3カ国を公式訪問し、24日、北京に帰国した。習近平主席の中東3カ国訪問は初めて。

中国は米国と並ぶ大国を自負しているが、世界の紛争地、中東で和平外交に積極的に関与することで、指導国家の威信を高めたいという狙いがあるとものとみられる。

習近平主席の訪問国3カ国は中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバーだが、サウジとイラン両国を同時に公式訪問する訪問日程は異例だ。サウジが今月2日、イスラム教シーア派指導者ニムル師を処刑したことがきっかけで、スンニ派の盟主サウジとシーア派代表イランの間で激しい批判合戦が展開し、一発触発の緊迫感が漂っている。そのような時に中国国家主席が両国を訪問したわけだ。

中国外務省は、「わが国は欧米諸国とは異なり、中東で紛争に直接関与したことがない。それだけに、公平な和平交渉が可能となる」と指摘し、中国の新外交、中東和平外交の意義を強調しているほどだ。

中国のメディアを中心に習近平主席の訪問先の言動を振り返った。同主席は最初の訪問国サウジの首都リヤドでサルマン国王と会談した。中国国営新華社によれば、サルマン国王は中国が進めるアジアと欧州を結ぶシルクロード経済圏「一帯一路」構想に支持を表明。それを受け、習主席は、サウジが軍事介入しているイエメンについて、「正統政府を支持する」として、サウジのイエメン政策を支持している。参考までに、習近平主席の最後の訪問国、イランはイエメン紛争では反政府勢力、シーア派武装組織フ―シを支援している。同主席の発言はイランに決して快いものではなかったはずだ。

習近平主席は21日、第2の訪問国エジプトのカイロのアラブ連盟本部で演説し、中東の経済復興のために総額350億ドルの融資、紛争地の人道支援など数々の支援プロジェクトを発表した。

具体的には、エジプトに対して数十億ドルの融資、中国観光客の増加などで合意。イランのテヘランでロハーニー大統領との会談では、イランが進める高速鉄道建設計画に中国が資金提供、ガス資源の開発支援などで合意したという。イランの核問題が今月16日、合意され、国際制裁が解除された直後だけに、中国側も人口7500万人のイラン市場進出を願っていることは間違いない。

中国は中東外交では政治面と経済面の2分野から検討している。政治面では、中東が政治版図の再構築期にあるという認識のもと、中東地域の安定化に貢献することで中国の政治的影響力を拡大すること、経済分野では、中東諸国は国民経済の発展のために支援を必要としていることから、積極的な経済的支援を実施することで、関係を深めていくという狙いだ。人民網日本語版は「中国と中東はいずれも世界文明のゆりかごであり、悠久の歴史と素晴らしい文化を持つ。双方の文明交流は大いに期待できる」と期待を表明している。

ちなみに、習近平主席は2014年6月5日、中国アラブ諸国協力フォーラム第6回閣僚会議で、「中国はアラブの友に対して、4つのことを堅持する。第1に中東の和平プロセスを支持し、アラブ民族の合法的な権益を擁護する立場の堅持。第2に問題の政治的解決を進め、中東の平和と安定を促進する方向性の堅持。第3に中東が自ら発展の道を模索することを支持し、アラブ諸国の発展を支援する理念の堅持。第4に文明的対話を進め、文明的な新秩序提唱を追求することの堅持。中国はアラブ諸国と共に、各自の民族を振興する道を歩んでいきたい」(人民網日本語版)と中国のアラブ外交の主要4点を述べている。

南シナ海で人工島造成など強引な海洋進出を実施している中国に対し、米国は厳しい批判を展開している。それだけに、中国側はオバマ米政権が暗礁に乗りかけている中東和平外交に関与し、その存在価値を高めていきたいはずだ。

しかし、米国が中東外交で苦慮しているように、複雑な民族間のいがみ合いの歴史を持つ中東諸国に足を突込めば、その迷路から抜け出すことは容易ではない。それだけに、中国の中東外交が単なる資源外交、バラマキ外交に終わるか、それとも地域和平に貢献できるか、注視していきたい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年1月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。