ご無沙汰してます。久々にパチンコVW問題に関する記事です。
1月22日に一連のパチンコ業界の不正改造問題について、政府側の担当である警察庁小柳保安課長の講話が発出されました。
内容としてはこれまでの講話を踏襲する形で、平均遊技費用が年間200万円を超えるパチンコ業界の射幸性頼りの営業に対して危惧の念を述べることに始まり、いわゆる「のめり込み問題」への対策の在り方、(一般的な)遊技機の不正改造問題、くぎ問題、流通問題、などについて幅広く述べられたものになっていました。(*みなさんも是非読んでみてください)そしてこの中で特に注目された「くぎ問題」に関する小柳課長の主要な発言をまとめると以下のようになります。
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【ポイント①:メーカーの経営への配慮】
「くぎ問題における当面の課題として、今後日工組から通知される見込みである検定機と性能が異なる可能性のある型式に係る遊技機について、通知後、可及的速やかに営業所から撤去し、適正な遊技機に入れ替えていくよう最大限の努力をお願いしたい」
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➡この発言ではパチンコホールから撤去対象となる遊技機(=納入段階からくぎの不正改造が為されていた遊技機)について述べられています。見ての通り撤去対象となる「検定機と性能が異なる可能性のある型式に係る遊技機」はメーカー団体である「日工組(日本遊技機工業組合)」から通知されるとしているのですが、ここに高度な業界への配慮が見られます。
どういうことかといいますと実際に個別メーカーの特定の型式について「検定機と異なる性能のものを出荷している」と警察が断言してしまうと、遊技機検定規則の11条に基づいて当該メーカーの検定制度への参加資格を取り消すことが大原則になります。そうするとメーカーの経営に致命的な影響を与える可能性が高く政治問題になりかねないことから、その辺の責任をあやふやにして「不正改造機の撤去」という果実を得るために警察としては①撤去機の指定を業界団体である日工組に任せるとともに、②遊技機の入れ替えを警察から行政にお願いする、という形式を取っています。
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【ポイント②:メーカー責任論への牽制】
「著しく射幸心をそそるおそれのある遊技機を設置して営業することについて、風営適正化法違反となることはご承知のとおりかと思いますが、仮に製造業者が出荷段階でそのような遊技機に該当する性能変更に関与していたとしても、営業者がそのような遊技機を設置し続けることは、営業者として風営適正化法違反となる行為となります。製造業者の関与があるからと言って、営業者の風営適正化法上の責任が免責されるわけではありません。」
➡この発言ではいわゆる「メーカー責任論」に対して一定の牽制をしています。ホール団体である全日遊連のスタンスに代表されるようにホールには「今回の問題はメーカーに責任がある」という被害者意識が垣間見えます。実際今回の一連のくぎ問題の主犯がメーカーであるのは間違いありませんが、ホールにも従犯としての責任があることは否めません。ホールは消費者に違法機を使って営業したという直接的で大きな罪を持っています。それをふまえ警察としてはホールがメーカー責任を主張するあまりくぎ問題解決に動き出さないことを懸念しており、今回「ホールにも責任がある」ということを明確に示したといったところでしょう。とはいえメーカーに対してなんらペナルティが科される予定がない現状にも問題があり、(下取りがあるとは言え)旧機種を撤去し新機種を買わせられる経済的負担が生じるホールが不満を持つことも仕方が無いことなのですが。。。
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【ポイント③:再発防止策】
「日工組としても、今後の遊技機開発にあたり、くぎの変更による性能の違いが起こらない遊技機づくりを目指しており、性能の違いがあれば営業所においても簡単に把握できるよう、検定機の性能に関する情報を提供することを検討していると承知しておりますが、取組を有効に機能させるため、各営業者においても、新たな遊技機の設置以降はくぎの問題を再び生じさせないとの意識を持っていただきたいと思います。」
➡この発言ではくぎ調整による不正改造問題の再発防止策について述べています。ここでは検定機の性能に関する情報をメーカー側からホール側に提供することで営業所においても性能の違いを簡単に把握できるようにするということを言っているわけですが、確かにこれによりメーカーの検定機と納入機の性能の違いは容易に把握できるようになるように思われます。ただ「消費者がホールで行われる不正改造を判断することが出来ない」という点では現状と変わらず、これだとホールによる釘調整に対する対策には本質的になっていません。その辺のニュアンスが「各営業者においても、新たな遊技機の設置以降はくぎの問題を再び生じさせないとの意識をもっていただきたい」という訓示的な言葉ににじみ出ており、「ホールの意識」という精神論で問題を解決しようという無茶を感じます。
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このようにくぎ問題に関しては不正改造機の撤去と再発防止に向け各種の取組みが為されることが予定されているわけですが、小柳課長の談話には若干の歯切れの悪さを感じざるを得ないというのが私の印象です。警察庁も官僚組織である以上業界の大手の経営に大きな影響を与えるような大胆な決断が出来ず、またパチンコ業界の内部事情へも一定の配慮をした結果、このような業界の「自主的な取組み」に期待する歯切れの悪い内容となったということなのだと思います。一言で言えば「官僚機構の限界」というところでしょう
こうした多方面へ配慮せざるを得ない官僚機構の限界を打ち破れるのは政治家だけですので、やはりこの問題への解決については国会での議論に期待したいところです。本来こうした不祥事に対する対応というものは
・不正をした会社に対して相応の罰を与え市場から退場させる
➡今回の場合、不正改造機種を出荷した業者の検定取り消し
・(同じような不正が再発しないように)消費者に対して品質を見える化する
➡今回の場合、遊技機への役物比率・連続役物比率等のモニタリング・表示システムの追加
ということが基本にあるはずです。警察の指導の下で不正をした当事者の会社を含む相変わらずのメンバーでパチンコ業界内部でごにょごにょ対策を論じても、これまでの業界の経緯を見る限りほとぼりが冷めた頃に同じような問題が起きる可能性が非常に高いでしょう。
警察の今回の談話は決定事項と捉えるものではなく、パチンコVW問題に関してあくまで現時点で警察の官僚組織が裁量の範囲でできる対策の限界をしめしたものと考えるべきだと思います。最終的に今回の事案に関してどの様な対策がとられるかは、今後の国会で議論が状況を左右することになるのでしょう。
ではでは今回はこの辺で。
編集部より:このブログは「宇佐美典也のblog」2016年1月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のblogをご覧ください。