また「政策決定の政府への一本化」と称して政務調査会を廃止した結果、官邸に仕事が集中してスタッフが足りなくなる一方、大部分の議員は官邸の決めた方針に従うだけで、ポストを失った。小沢幹事長はこれを自民党時代に戻して陳情の窓口を逆に幹事長に一元化し、意思決定の二重性はひどくなった。
こうした混乱の原因は、彼らが政治主導の意味を取り違えていたことにある。自民党政権も政治家が官僚をコントロールしていたのだ。法案は官僚がつくるが、それは自民党の政調会で「族議員」がチェックし、総務会で満場一致で承認されないと国会に提出できない。つまり
各省の起案→各省折衝の合意→政調会の合意→総務会の合意→閣議決定
という三重のコンセンサスで、法案ができる前に多くの政治家が介入するのだ。たとえば私が経済産業研究所にいた2001年4月、総務省はNTTドコモのシェアを下げるため、携帯電話に「ドミナント規制」をかけようとした。
これは固定電話のようにNTTが加入者線を独占している場合に行う規制だが、携帯電話は加入者線を各社がもっているので必要ない。ちょうどこの直前にFCCのペッパー局長に話したら「それは本当か」とあきれていた。
総務省は自民党の総務部会にドミナント規制法案を出してきたが、私が参考人として呼ばれた。私が「FCCは携帯電話にドミナント規制をかけている国なんかないと言っていた」と証言すると議場は騒然となり、「総務省は世界の常識を知らないのか!」と族議員から怒号が飛んだ。
結果的には法案はつぶされ、その年の夏の異動で電気通信事業部長は1年で更迭され、担当課長4人が地方に左遷された。このように政調会や総務会の事前審査で政治主導は機能していたのだが、それは意思決定の混乱をまねき、満場一致できない(利害の対立する)法案はいつまでも先送りされる。
これは安倍政権でも同じだ。今は公明党の政調会も通さなければならないので、四重のコンセンサスになり、有力者が一人でも反対すると法案は止まってしまうので、どこからも文句の出ないバラマキしかできない。人事だけは首相の専管事項なので、日銀総裁に黒田氏を任命して(よくも悪くも)大胆な政策ができた。
このように多重のコンセンサスをへないと何もできない自民党システムを変えないと、大きな改革はできない。小泉首相が郵政民営化をやったのは、総務会で満場一致の慣例を破って多数決で決め、反対する議員を除名して自民党システムを破壊したからだが、その後は元に戻ってしまった。
このように意思決定が「政府・与党」に二重化しているのは日本だけで、イギリスでは官邸スタッフが意思決定し、アメリカでは議会事務局のスタッフが法案を書く。日本でも政調会や総務会を廃止し、各官庁の局長級はすべて官邸に集めるなどの抜本改革をしないと、思い切った改革はできない。