今、なぜ円高なのか?

日銀がマイナス金利を導入して118円台が瞬く間に3円ほど円安になり、一時、「さすが日銀、決断力の黒田総裁」という声が上がりました。しかしながらそれも1,2日にしてかき消されるように円高に進み、今日このブログを書いている時点で既に116円台をつけるなど「あの騒動は何だったのか?」という疑問が残っているかと思います。

私は長く、「長期的には円高に振れる」ということを申し上げていましたし、年初の「今年の予想」では円高になると指摘させていただきました。理由はアメリカの利上げが12月に実施されたからであります。こう書くと「お前は為替のイロハも知らない」と指摘を受けそうですが、実は世の中、教科書通りにならないことも多く、今回の動きは正に前人未到の領域にいる故に当たり前のことが当たり前になりにくいともいえます。

2月3日の日経に「為替を動かす3つの材料」という特集があります。そのポイントとして①金利差拡大は円安、②原油安続けば円高、③中国がリスク要因とあります。そのうち、①と②についてはこの数日の動きをみると否定されています。つまり日経の教科書通りの想定は当たっていないということになります。

何が間違っているのか、ですが、最大のポイントは円がドルを動かすほどの力はないということです。基軸通貨ドルは横綱であってそこにちびっこが相撲を取ってもびくともしないと考えて良いのではないでしょうか?つまり、中銀や政府が為替対策を行ない、一時的に為替が動いたとしてもそれはニュースの衝撃波によるブレであり、本質を動かすものではないのではないでしょうか?

アメリカが12月に金利を引き上げた意味をもう一度考えます。9年半ぶりの利上げ、6年以上続いた景気拡大と雇用情勢の改善を受けてようやく金利正常化に踏み切ったこの意は「双六のゴール」であって達成感に満ち溢れてしまいました。私は2016年のアメリカ経済は下向き、利上げもそうそうないだろう、と申し上げたのは経済循環の法則の中で6年の景気拡大は明らかに長いのです。もう一つ、9年半ぶりの利上げでいよいよスタートダッシュを切ったというニュアンスに聞こえますが、量的緩和をこなし、そこから脱却するプロセスも利上げ効果と同じ意味合いがあることがすっ飛んでいます。

ユーロ/ドルをみると12月の利上げを機にユーロが強含み、ここにきて一気にユーロ高になっています。その間、ドラギ総裁は3月に欧州の金融緩和を匂わせていますが、全く効果はありません。つまり、マイナス金利など金融緩和がもたらす為替の影響はかつての効能を見せないのであります。

もう一つの日経の教科書が違うと思われる点は「原油安が続けば円高」であります。これは円だけをみて輸入物価が下がるので円が強くなるという古典的シナリオですが、実は真逆で「原油高が続けば円高」になりそうです。理由は原油高=資源国の為替が安定化し、ドルが弱含むため、シーソー関係にある円は高くなるのです。この数日の原油相場動向と円相場を重ね合わせるとお分かりいただけると思います。

つまり、日本の要因だけを見ていても為替は語れないのです。数日前のブログで原油高は他の資源の連想高を引き起こす、と申し上げましたが、今朝の北米の相場をみても原油相場が腰折れしなかったため、資源は一斉高です。よって116円台という円高を引き起こしています。

最後にもう一つ、ご紹介しておきましょう。「債券王」ビルグロース氏の直近のコメントです。「『それ、効果ありますか?』というのが、低金利には満足な経済成長を生み出す力がないことを言い表すのに適した端的で簡潔な表現だ」とし、「世界の中銀は皆、金融市場の富が溢れ出て最終的に実体経済に流れ込むのを促すのに『十分に低い金利水準』というものがあると考えているようだ」(ブルームバーグより)とあります。暗に闇雲な金融緩和はプラスよりマイナス側面が目立ってきたと考えているのです。

仮に金融市場にこのような考えが浸透すれば日欧の中銀は非常に厳しい立場に立たされます。

今の市場に教科書も定石もなく、その時その時に当てはまる最適の読解力が求められます。FXのプログラム売買がワークしにくいのもこのあたりにあるのでしょう。人間とコンピューターの戦いのようですが、グローバル化によりモノを動かすエレメントが非常に多く、複雑になった一方、細かいところにとらわれ過ぎて大所高所からの視点を見落としていることもあるということではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 2月5日付より