ブルームバーグの大統領選挙立候補検討の背景

何故、ブルームバーグの大統領選挙立候補は検討されているのか

億万長者・メディア社主であり、3期の元ニューヨーク市長としての実績を誇るブルームバーグ氏。政治遍歴としては、元々は民主党支持者でしたが、市長選挙出馬時に共和党から立候補、市長退任後には無所属に戻っています。

政策的な方向としては、社会政策は銃規制強化・中絶賛成などリベラル傾向ですが、経済政策は財政均衡路線で保守的傾向を持つハイブリッド型の政治家です。イデオロギー的な人物というよりは、根っからの経営者タイプの人物と言えるかもしれません。

そのブルームバーグ氏の大統領選挙出馬、それも「無所属」での立候補が取り沙汰される状況となっています。今回は、その背景にある米国の政治構造について分析していきます。

共和党・民主党内の勢力争いを知ることで「ブルームバーグ」の意味が分かる

ブルームバーグ氏の立候補検討に至る流れを理解するためには、共和党・民主党内部の勢力構造という背景事情について知る必要があります。両党の党内闘争の現状をざっくりとした構図で示すと下記の通りとなります。

〇共和党  共和党指導部(主流派(ルビオ)VS保守派(クルーズ))VS共和党不満層(トランプ)
〇民主党  民主党指導部(ヒラリー)VS民主党不満層(サンダース)

共和党は指導部内で主流派と保守派が対立しており、更にその両者とも対立する不満層を吸収したトランプ氏が存在している三国志状態になっています。民主党はゴリゴリの既得権者であるヒラリー女史に対してサンダース氏が不満層を吸収して党内を2分する戦いを展開しています。

「ブルームバーグ」は共和党主流派と民主党指導部の連合が擁立する隠し玉

実は「ブルームバーグ」は共和党主流派と民主党指導部の連合が擁立する隠し玉と言われています。

選挙戦の様相は、共和党は初戦アイオワでは保守派のクルーズ氏が勝利、次戦のニューハンプシャーではトランプ氏が優勢な状況があります。ルビオ氏が追い上げているものの、先行する二人を差し切れるか否かは予断を許さない状況です。民主党は政財界で圧倒的優勢を築いているヒラリー女史がサンダース氏の猛追を受けて、あわや逆転の芽さえ出てきている状態です。

その結果として、共和党・民主党内で常に勝者であり続けたエスタブリッシュメント(共和党主流派・民主党指導部)が敗北する可能性が生じています。そして、この予備選挙におけるエスタブリッシュメント敗北のシナリオこそがブルームバーグ擁立論につながっているのです。

共和党主流派の「トランプ氏だけでなく保守派のクルーズ氏も嫌」、民主党指導部の「自分たちの利権を壊すサンダースは論外」という両者の思惑が一致した「エスタブリッシュメントが待望する第三の候補者」がブルームバーグ氏ということになります。

ニューハンプシャー州予備選挙の結果によってリアルな選択肢に・・・

上記のような構図を前提とした場合、ニューハンプシャー州の予備選挙の結果は極めて重要な意味を持つことになります。ブルームバーグ氏の擁立に向けた動きが本格化する条件を勝手に推測すると・・・

〇共和党 
トランプ氏が10ポイント以上差をつけてルビオ氏に勝利、クルーズ氏も一定の得票数を取得し、共和党内予備選挙の1位・2位構図はトランプ&クルーズという図式が定着すること

〇民主党
ヒラリー女史がサンダース氏に決定的な敗北をすることで、ニューハンプシャーだけでなく全米の支持率でもサンダース氏が逆転または両者の差が僅差になること(直近のキニピアック大学の世論調査で全米での両者の支持率差は2%という数字もあり)

という感じでしょうか。

なお、筆者はクルーズVSサンダースの構図になった場合でもブルームバーグ氏の出馬は十分に想定されるものと思います。保守派の候補者であるクルーズ氏が共和党主流派から受け入れられるかは未知数だからです。

一般的にはトランプVSサンダースの構図でブルームバーグ氏の立候補の可能性が取り沙汰されていますが、表面的なトランプ氏とサンダース氏の印象論だけではなく、共和・民主両党の背景事情にまで踏み込んだ考察を行うことが重要です。

ちなみに、エスタブリッシュメントにとってはルビオ氏やヒラリー女史も彼らの選択肢の一つに過ぎず、それがダメならジェブ・ブッシュ氏からルビオ氏にスイッチしたように支持先を取り換えるというだけの話に過ぎないものと思います。

米国民主主義の在り方に挑戦する「ブルームバーグ」という選択肢

良いか悪いかは別として、ブルームバーグ氏の立候補は、米国エスタブリッシュメントによる米国民主主義の在り方への挑戦、といっても良いかもしれません。

エスタブリッシュメントが第三の候補者の擁立を行う理由は、彼らが米国の特徴である多様で力強いグラスルーツ(草の根)による民主主義への疑念を持っているからです。

エスタブリッシュメントは共和・民主両党員の投票による予備選挙の手続きを通じて左右両極の候補者が選ばれることを望んでいません。ブルームバーグという選択肢の提示は「エスタブリッシュメントが推している理性的な候補者が選ばれるべきだ」という彼らの強い意志表明と言えるでしょう。

今回の大統領選挙を通じて、トランプ・クルーズ(共和党保守派・不満層)VSサンダース(民主党不満層)VSエスタブリッシュメント、という米国が抱える真の対立構造が表面化しつつあります。

渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)
早稲田大学公共政策研究所地域主権研究センター招聘研究員
東京茶会(Tokyo Tea Party)事務局長、一般社団法人Japan Conservative Union 理事
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