起業はアイディアと忍耐力

岡本 裕明

日本と中国の圧倒的な違いの一つに起業に対する意識があります。1分に8社、これが中国の起業のペースで年間100%という起業数の成長率はもちろん世界一で2位のイギリスの2倍だとか。

そういえば中国では従業員の定着率が悪いことが有名ですが、会社や国家が面倒みてくれるという安心感がないからこそ、自分の身は自分で守るという発想が体に染みついているのでしょう。ここバンクーバーでも中華系のビジネスは大変活発ですが、ビジネスをする人、お金を出す人が別々の役割を担っているように見えます。こんなビジネスをしたいといえばお金を持っている人が投資をし、投資家はそのリターンを期待し、起業をする人はビジネスで夢を見る、ということでしょうか?このあたりの流れはアメリカのエンジェル投資家に似ており、日本の弱点とされる部分であります。

日本で起業といえば商店街に店を出す、といったことが多いかと思います。仲間達がマンションの一室に雑魚寝で頑張って面白い商品を作り上げたという話は最近聞かないか、はじけるようなヒットが出ていない気がします。たまに聞くのが日本はビジネスのニッチ(隙間)がない、と言われます。どれを考えても誰かが既に先鞭をつけている、ということでしょう。その為、皆、同じようなビジネスでごくわずかの差の勝負をしているような気がします。

例えば日本に限らず、今や世界中どこにでもあるラーメン店。ある意味、起業しやすい環境があります。スープは自分でできなければ買ってくればよい、麺は製麺所、メニューは限りがあり、特殊な技術も必要なく、あとは需要があるところに店を出せばよい、という流れかと思います。確かにミシュランの星がつくほど市場も深くなってきているのですが、起業という意味ではもっと他に切り口はないのかな、という気がします。

絶対安定のビジネスをするには他人が入り込めない技術、能力、参入障壁があればよいとされます。ここで私のバンクーバーのレンタカー事業の場合をご紹介しましょう。

まず初めに事業参入の為、役所に許可を求めたところ、意外に厳しくコントロールされており、他のレンタカー会社の許認可や位置関係をつぶさに検討し、ようやくもらった営業許可はたった3台分。

次に車を購入し、自動車保険を買ったところ、何と年間一台100万円以上。どう考えても利益なんか出ません。ただし2年以上の事業経験があり、5台以上だとレンタカー保険を購入でき、65%引きと安くなります。しかし3台しか許可がないと逆立ちしてもこれをクリアできません。そこで立てた戦略はどうせ赤字だから初めは2台でスタートし、2年の事業経験を積む一方で、役所と交渉し、まず、5台の許可を取得する交渉を進めました。これはうまくいき、半年ぐらい交渉して5台まで許可になり、あとは事業経験を積む中で車を一台、また一台と増やし忍耐強く我慢をし続けたのです。

なぜ、ここまでしたかといえばこのハードルを抜けると他人が参入できない絶対的な権利が確保できるのです。許可と保険という二つのハードルを超えるために赤字を最小限に食い止め、その二つを達成した時に一気に花咲くことは容易に想像できました。その間に顧客を増やし、レンタカー事業の存在を目の前のホテル客や近隣の集合住宅の住民に営業します。特に近隣住民の半分はセカンドホームオーナーで年のうち一時的にしか滞在しないため、車を所有していません。その為、必要な時に必要なだけ借りられるレンタカーは非常に便利なのです。

では、今はやりのカーシェアリングとの競合はどうしているのか、といえば実はカーシェアリングの場合、カナダ国外に出られず僅か50キロ先のアメリカ国境を越えられません。また、走行距離制限と車の車格から基本的に街乗り仕様でウィスラーやオカナガンなど観光地に1-2泊でドライブといった使用には全く適しておらず、価格もうんと跳ね上がるようになっています。つまり、市場はカーシェアリングとレンタカーの使い分けにようやく気が付いてきているのです。

4月から弊社所有のマリーナ施設の自主運営が始まりますが、ここでもレンタカー需要を発掘できる自信があります。それは船はかならずどこかに目的を持って出かけ、通常1週間から長ければ1-2か月は出てしまいます。その間、空いたスペースを外から来た別の船に1日単位で貸すしくみになっています。外から船で来た人は陸地のことは不慣れです。そこで我々がレンタカーを含めたパッケージをオファーするという仕組みです。

ビジネスはこうやって繋げていくと加速度がついてきます。従業員何千人の上場会社とは全然違うアプローチですが、市場と需要はこうやって生み出していくものだと思います。

日本で需要がない、新たな起業ネタがない、というのは発想の切り口が乏しいことはあるでしょう。どうしても他の人をみて、自分もやろうというスタイルになりがちで独自の思想に欠如します。ここはアメリカや中国と比べて競争力が劣る気がします。ただ、正直申し上げると日本のビジネスは価格に対する繊細度が高すぎて価値よりも価格というところが大きすぎて北米の様に展開しにくいことも事実ですが。

私が若者は一度は外の空気を吸うべき、と主張するのは海外にいる人たちの発想の仕方を学んでほしいと思うのです。日本の常識ばかりにとらわれずこんな展開の仕方もあるんだ、ということに気が付いてもらえればと思います。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 2月14日付より