007シリーズ第24作「スペクター」。さらさらなびく金髪にアイスブルーの瞳でこれまでにない超然たるジェームズ・ボンドを創り出しダニエル・クレイグにとって、4作目です。
今回は2012年の「スカイフォール」から180度転換し、007らしいアクションと色恋沙汰を絡め原点回帰しました。作品の仕上がりも、映画の根本に立ち返ったかのよう。全編にわたってカラー・グレーディングを駆使しコントラストを散りばめ、観衆を飽きさせない努力を張り巡らせています。冒頭のシーンはメキシコで熱感溢れるイエロー・トーンのフィルターを活用し、次のロンドンでは静謐なホワイト調にシフト。ローマでは再びロマンチックな琥珀色をまぶし、オーストリアの雪山では白銀に映える色調へ戻す・・・熱と冷を織り交ぜたスクリーンは、ストーリーと合わせ観客を刺激したのではないかと。
ボンド・ガールのチョイスも、憎いほど対照的でしたね。最高齢のボンド・ガールとして登場したイタリアの宝石、モニカ・ベルッチの艶かしい黒髪と熟した果実の豊潤さに陶然としたかと思ったら、レア・セドゥのフランスの田舎娘らしい風貌と若さ溢れるマイペースっぷりに踊らされてしまいます。出ずっぱりのレアに比較してモニカ姐さんがチョイ役過ぎて悲しくなってしまうものの、見終わった後に込み上げる存在感はさすがですね。レアちゃんは「ミッション・インポッシブル/ゴースト・プロトコル」では生意気な悪役でいい感じでしたが、ボンドガールとしての力不足感は否めませんでしたから。
さて、ここからはネタバレです。
モニカ姐さんの流れで言うなら、前作「スカイフォール」で大破したアストン・マーチンDB5を憶えておいででしょうか?新作ではアストン・マーチンDB10を水没させたにも関わらず、ボンドがエンディングに颯爽と駆けていったのはQが復活させたDB5なんですね。
本編での隠れた悪役、Cは小賢しさ満点で鼻持ちならなかったですね~。英国ドラマ・ファンの方は、登場した瞬間に悪役と察知したはず。C役のアンソニー・スコットは、ベネディクト・カンバーバッチをスターダムに押し上げたドラマ「シャーロック・ホームズ」の宿敵モリアーティを怪演していましたから、忘れられません。煮ても焼いても食えない悪役というジャンルを、このまま開拓して頂きたい。
「スペクター」と聞いて心躍らせたあなた、007通ですね!そう、スペクターと言えば、ボンドの宿敵エルンスト・スタヴロ・ブロフェルドが率いる悪のシンジケート、”対諜報・テロ・復讐・恐喝のための特別機関(SPecial Executive for Counter-intelligence, Terrorism, Revenge and Extortion)”。ブロフェルドの姿は1962年公開の「007/ロシアより愛を込めて」や「サンダーボール作戦」では手や膝しか現れなかったものの、1967年に公開され浜美枝さんがボンドガールを務めた「007は二度死ぬ」で初めて全貌を明らかにしたことで知られていますよね。スキンヘッドに右目に走る縦の傷跡が印象的で、白いペルシャ猫がトレードマーク。おちゃらけスパイ映画「オースティン・パワーズ」シリーズでは、悪役ドクター・イーヴィルがその姿をパロディしていました。
権利問題がクリアになったことを受け、遂に悪の本丸が登場し伏線を回収しまくったわけです!
今回のブロフェルドは定番のスキンヘッドではなかったものの、随所に特徴を抽出。
ここまでくれば、面白くないはずがないかと思ったら・・・まぁここまで予想通りのストーリー展開も珍しいほど。おまけに、エンドロールに出た画面が「JAMES BOND WILL RETURN」とは、お粗末過ぎる・・。せめて、バカンスを満喫するボンドか逮捕後のブロフェルドでも描けば良かったのではないでしょうか。
(出所:My Big Apple NY)
IMDBで「スカイフォール」は7.8点と高得点だったにも関わらず、「スペクター」が6.9点だったのも頷ける。サム・メンデス監督らしい歪んだ「家族愛」の伏線もスタート直後から垣間みれ、非常に残念でした。シナリオは「スカイフォール」に続きニール・ピュビスが務めたものの、ロバート・ウェイドの不在が効いたのか。映像でやたらと小細工した理由が分かった気がします。
(カバー写真:007.com)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年2月15日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。