英国はEUに残留しても準加盟国化する --- 八幡 和郎


▲EU残留の是非を問う国民投票実施を発表するキャメロン首相(英国首相官邸公式サイトより、アゴラ編集部)


EU(欧州連合)と英国の合意が成立し、6月23日に英国のEU残留の是非を問う国民投票が行われるが、EUにとってあまり重要なものにはならないだろう。今回の合意条件で残留しても英国はEUの中核から致命的に外れ外様大名的なメンバーになる。言ってみれば常務から名誉副会長になるようなものだ。

逆に脱退したとしてもEUと英国は緊密な協力が必要であろうから新しい協定が結ばれ激変があるとは思えない。今回の合意は主として3点からなるが、実害は東欧からの移民自身以外にとっては、あまり実害がないのだ。東欧が怒っているのは、むしろ、侮辱されたと感じているからだ。

①移民に対して英国民と同じ社会保障の対象にすぐにはしないとか、外国に住む子供への養育手当は居住国の生活水寿まで減額できる(仏独などほかの加盟国でもそうした方針を本音では望んでおり、その先行事例となるとメルケル首相はすでに言明している)

②政治的統合深化に参加しない(英国抜きだと話がまとまりやすく仏独は歓迎)

③加盟してないユーロの運営に意見を言う機会が与えられる(拒否権でないので仏独は無視するだろう)。

キャメロン英首相は、「英国はEU内で特別な地位を得た」「英国は改革されたEUの中でより強く安全になる」「EUを離脱することのは、闇の中に飛び込むようなものだ」と胸を張ったが、反対派のファラージ党首からは「アカデミー賞者の演技」と皮肉られる始末。

他のメンバー国は、今回はキャメロン英首相に花を持たせたし、譲歩などしていないとは控えめにしかいわないが、本当はたいした譲歩はしていないし、貸しを作ったとも思っている。キャメロン氏は6月23日まで演技を続けて貰うことで他首脳に借りをつくることになろう。

一方、英国にとっては、脱退となればスコットランド独立が現実味を帯びるだろう。また、残留支持を隠さない王室の人気にも傷がつくだろう。

それにしても、EUは少なくとも憲法上の必要がないのに国民投票にかけることを禁止する条約改正が必要だ。

また、ドイツの暴走に歯止めを掛けるためには、古典的な英仏同盟の復活が必要なのだが、英国ではサッチャーリズムの残滓と極左のコービン労働党党首のような極端な勢力が強く中道派不在になってしまい、左派も右派も現実的な中道路線になっているフランスとはうまくいかない。第一次世界大戦の連合国のよしみで日本が仲介したいくらいだ。

最後に、ひとこと。イギリスが脱退すると論理的には、英語が公用語でなくなるはずと思う人がいるだろう。しかし、さすがに、それはない。なぜなら、英語はアイルランドとマルタの公用語のひとつなので、それがゆえに、公用語であり続けるのだ。


八幡和郎  評論家・歴史作家。徳島文理大学大学院教授。
滋賀県大津市出身。東京大学法学部を経て1975年通商産業省入省。入省後官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。通産省大臣官房法令審査委員、通商政策局北西アジア課長、官房情報管理課長などを歴任し、1997年退官。2004年より徳島文理大学大学院教授。著書に『歴代総理の通信簿』(PHP文庫)『地方維新vs.土着権力 〈47都道府県〉政治地図』(文春新書)『吉田松陰名言集 思えば得るあり学べば為すあり』(宝島SUGOI文庫)など多数。


編集部より;この原稿は八幡和郎氏のFacebook投稿にご本人が加筆、アゴラに寄稿いただました。心より御礼申し上げます。