「アメリカの今後の利上げペースは想定よりかなり緩まりそうだ」というニュースは通貨安に悩んでいた新興国にとっては朗報でありました、ただ、韓国を除いては。
韓国ウォンがドルに対して5年8か月ぶりの安値を付けたことが報道されていますが、これは対円でも対中国元でも下げています。韓国中央銀行総裁の李柱烈氏の端的にまとめた次の発言が一番わかりやすいのだろうと思います。「今年に入って中国の金融市場の不安、国際原油価格の追加下落、日本銀行のマイナス金利導入などで国際金融市場の変動性が非常に大きくなった」として「このような対外リスクに北朝鮮関連の地政学的リスクまで加わって不確実性がいつになく高い」としています。
「不確実性」という言葉はアメリカでも使われつつあり、2016年の経済キーワードになるかもしれません。経済における「不確実性の時代」といえば70年代後半にガルブレイス博士が出版した本が有名であり、これに噛みついたのがマネタリストのフリードマン博士でした。この論争は延々と続き、世界の経済情勢によりどちらかに天秤が傾いてきました。今、それはガルブレイス博士の方に有利ということでしょうか?
韓国の不安とは世界を取り巻く方向性の不確実さの中で長期的戦略が取りにくいことがあるのだろうと思います。韓国株式市場に於いて外国人が昨年6月以降売り越しているという事実は世界の中で韓国の確固たる位置づけをしにくいことが手伝っているのではないでしょうか?
2015年10-12月のGDPは前の期から大幅ダウンの0.6%成長、1月のインフレ率はわずか0.8%であります。本来であれば現在の1.5%の政策金利を下げることで経済のテコ入れをしたいところですが、通貨安が止まらなくなる可能性があり、韓国中央銀行は難しい舵取りを要求されています。
3月に向けて日欧は更なる金融緩和をする可能性が高まっていますが、多くのエコノミストはマイナス金利の経済的効果はないと考えています。ブルームバーグによればもはや日銀とECBは少数派であるとしています。理由はマイナス金利の「刺激性」が薄れていること、スイスやデンマークのような小国には適するが日欧のような主要通貨に於いては効果が出にくいというものです。となれば、想定上は日本がゼロ金利政策の深追いで韓国ウォンは強含むはずですが、それが期待できないことになり、韓国中央銀行は利下げ政策を断行できないとも言えるのでしょう。「ればたら」のような話ですが、これが不確実性の時代の背景でもあるのです。
不確実性の世の中の原因は何でしょうか?成熟化した先進国経済やITやAIの急速な発展に伴う既存ビジネスモデルの破壊的変化、存在感を示す中国経済とそのかじ取り、世界各国のパワーゲームのアンバランスさ。テロのみならず、北朝鮮の不気味な動きや中国の南沙諸島での新たなる「万里の長城」建設、アメリカの世論がサンダース氏のような民主社会主義に向かってみたり、アメリカ版「万里の長城」を巡りトランプ氏がローマ法王と酷い舌戦をするなど枚挙にいとまがありません。
これに振り落とされないよう、すべての国家、企業、国民は並々ならぬ努力をしますが、勝ち抜けない脱落者が出ていることも事実であります。「不確実性の世の中」を当てはめれば韓国だけではなく、どの国も不安いっぱいの状況にあるとも言え、何処もギリギリのかじ取りだとも言えます。
韓国はFTAを世界中に張り巡らすことで製品輸出に於いて有利な立場を築く政策をとってきました。が、これは裏返せばその産業構造を変えにくい弱点を作ったとも言えます。つまり、韓国政府は自国の進むべき色を決めすぎたために「不確実性の時代」に色の変化対応に後れを取っているということでしょう。例えば韓国のサービス産業の立ち遅れは致命的でありますが、それが育つ素地が見えないことは一つの大きく懸念すべき事態であります。
このままでいけば韓国経済はより厳しいところに追いやられる公算が高い気がいたします。
では今日はこのぐらいで。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 2月22日付より