先日、韓国で不当な言論弾圧を受けた産経新聞の加藤達也氏の手記『なぜ私は韓国に勝てたか』(産経新聞出版)を読んだ。
読み終えての感想は、別の場所で詳しく書いたので、再掲しないが、不愉快というよりも、正直言って、恐ろしく野蛮だと感じた。言論の自由という自由民主主義国家の最低限の条件すら、無視して「反日」を優先する韓国とは、冷静な議論が出来ない。そう思わざるを得なかった。別にこちらが議論を拒んでいるわけではない。韓国には議論のための土台である言論の自由が存在しないのだ。
加藤氏の手記だけでそう確信させるに十分だろうが、『帝国の慰安婦』を巡る韓国の騒動を眺めていても、やはり異常だと思わざるをえない。
『帝国の慰安婦』を執筆した朴裕河教授は、韓国を貶め、日本を過剰に賛美するような人物ではない。「慰安婦」の存在が、日韓であまりにもかけ離れて偶像化されていることを批判しているのだ。韓国では悲劇的な「性奴隷」とされ、日本の右派からは単なる「売春婦」とされた「慰安婦」の実情とは、どのような存在だったのかを探り、そうした慰安婦が存在した構造を探ろうという試みこそが『帝国の慰安婦』の執筆の意図だろう。
日韓で引き裂かれ、偶像化された「慰安婦像」のそれぞれについて、それらは虚像であると主張しているのだから、決して単純な「親日派」というわけではない。むしろ、日本の保守派が読めば怒りだすであろうような記述も少なくない。
例えば、朴教授は指摘している。
「数百万人の軍人の性欲を満足させられる数の『軍専用慰安婦』を発想したこと自体に、軍の問題はあった。慰安婦問題での日本軍の責任は、強制連行があったか否か以前に、そのような〈黙認〉にある」(『帝国の慰安婦』32頁)
彼女は決して日本軍、そして大日本帝国が無謬であったと主張しているのではない。だが、韓国側が主張も極端だとして、韓国人が触れたくない事実も指摘している。例えば、次の指摘だ。
「朝鮮の貧しい女性たちを戦場へ連れていったのは、主に朝鮮人や日本人の業者だった」(前掲書、28頁)
「挺身隊や慰安婦の動員に朝鮮人が深く介入したことは長い間看過されてきた」(前掲書、49頁)
要するに、『帝国の慰安婦』は、日韓の極端な「慰安婦像」を問い直し、本来、「慰安婦」とはいかなる存在であり、そうした慰安婦を生み出した構造を問うという内容の本なのだが、こうした研究が韓国では禁忌とされたようだ。
朴教授を元慰安婦の女性たちが名誉棄損で訴え、ソウル東部地裁は1月13日9000万ウォンの支払いを命じる判決を言い渡した。そして2月には、給与の差し押さえが認められたという。
慰安婦とはいかなる存在であったのかを虚心坦懐に研究しようという試みそのものが名誉棄損とされてしまうという野蛮。慰安婦問題の真の解決を妨げているのは、日韓のいずれの国家なのか。それは火を見るより明らかではないだろうか。
韓国の言論空間が成熟しない限り、この問題が解決することはない。
編集部より:この記事は政治学者・岩田温氏のブログ「岩田温の備忘録」2016年2月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は岩田温の備忘録をご覧ください。
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