勢いが止まらない不動産王トランプ候補に対し、共和党がBrokered Conventionなるカードを切ろうとしている――。
ブローカード・コンベンション、直訳で「仲裁集会」となるこの言葉は共和党が1948年、民主党は1952年を最後にお蔵入りした政治的な妥協の産物を表します。大統領予備選で各党候補者が過半数の代議員数を獲得できなかった場合、正式候補を協議と擦り合わせを経て指名するという仕組みなんですね。2016年の場合、代議員数2474人中、1237人を確保しなければなりません。
1948年以降を紐解くと、1976年に予備選を辛くも勝ち抜けたジェラルド・フォード米大統領(当時)の場合など、過半数を確保が困難だったケースでブローカード・コンベンションが検討されてきました。しかしながら予備選を進めていく間に候補者が絞られていくため、事なきを得ていたわけです。
ところが、ここに来て時代遅れの妥協案が俄に現実味を帯びてきました。
ひとまず、ブローカード・コンベンションに至るには以下の必要条件を満たさなければなりません。
1) 手早く過半数を得られるよう候補者を抑える
2)過半数(2472人中1237人)の票数を獲得する
3) 8州(自治領でも可)以上の支持を得ている
一部ではポール・ライアン米下院議長のほか、2012年共和党大統領候補のミット・ロムニー氏を挙げるべきとの声まで上がっており、何でもありの状況です。共和党主流派にとってみれば死活問題で、トランプ候補が大統領に就任してしまったら自身が副大統領あるいは重量閣僚に指名される望みが薄くなってしまいますからね。党内の勢力図など根底から覆される恐れもあり、何としてもトランプ候補の勝利は避けたいところなのでしょう。
もっと驚くべきウルトラCこそ、ルビオ候補を予備選に残しクルーズ候補を撤退させるというもの。クルーズ候補を副大統領候補にしてトランプ候補を切る、奇妙キテレツかつ斬新な「カード」です。
足元、代議員数ではトランプ候補が81人で頭ひとつもふたつも抜きん出ています。
(出所:Google)
2位のルビオ候補とクルーズ候補はそれぞれご覧の体たらく。大逆転には、勝者総取り州(winner takes all)での巻き返しが絶対条件と言えるでしょう。特に3月15日に予備選を控えるフロリダ州は、99人の代議員数を抱えます。ルビオ候補は、絶対負けられません。もし共和党陣営が本気でルビオ+クルーズの正副大統領コンビを視野に入れているなら、行動に出るにはまさに「今でしょ!」状態なんですね。
ただクルーズ候補はテキサス州のメインストリートの後援者を抱え、撤退の気配を見せていません。シェール産業で財を成し中絶反対派をまとめるウィルクス兄弟やエネルギー関連投資で知られるトビー・ニューゲンバウアー氏は、スーパーPACと合わせ1000万ドル以上も寄付しており、このような大口の寄付者の期待を裏切れない事情もあります。ルビオークルーズの夢の組み合わせは、果たして現実化するのでしょうか?
(カバー写真:Vox)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年2月25日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。