■意味不明な「三世代同居支援」予算
今年1月の衆議院予算委員会で、27年度補正予算を審議した際、私は「三世代同居住宅建築支援事業」を取り上げた。16.8億円の事業だ。
三世代で同居すると出生率が上がる傾向があるので、補助金を出して、三世代同居に対応した住宅の建設を支援しようという政策だ。一見、もっともらしい政策に聞こえるが、中身が無茶苦茶だった。
まず、三世代同居を支援するといいながら、三世代同居が補助の要件となっていない。全く意味不明である。
そのかわりに、①キッチン、②トイレ、③浴室、④玄関の4つのメニューのうち、2つ以上をそれぞれ複数設置すれば、補助金がもらえる。例えば、キッチンが2つ、トイレが2つ付いた家を建てれば、最大130万円の補助が出る。
繰り返しになるが、実際に三世代が同居することは補助の要件となっていない。これでは、単なる「豪華住宅建築支援事業」でしかなく、とても希望出生率1.8の達成に役立つ政策とは思えない。1月の予算委員会では、石井国土交通大臣に、こうした問題点を厳しく指摘した。
しかし、来年度、28年度予算案を見て驚いた。この的外れな三世代同居支援事業が、ふたたび計上されていたからだ。しかも、予算額は150億円に膨らみ、補助額も最大250万円に拡大するなど「バージョンアップ」していたのだ。
そこで、3月1日の予算委員会で、この点を問いただしたところ、安倍総理は「新婚世帯や子育て世帯を世代間で助け合い、大家族で支え合う生き方も選択肢として支援をしている」と答弁した。
この答えから考えるに、安倍総理は、いわゆる「大家族主義」を“美しい”理想としているのだろう。ただ、もはやサザエさんの時代ではない。ノスタルジーに浸るために多額の税金を使うべきではないし、そもそも、三世代同居を補助の要件としていない以上、三世代同居が増えるかどうかさえ分からない。ましてや、出生率上昇にどれだけつながるか全く不明である。
ちなみに、2月24日、与党・公明党の推薦で公述人として予算委員会に呼ばれた白石真澄・関西大学政策創造学部教授も、私の質問に答える形で、三世代同居支援事業の政策効果は疑問である旨、はっきりと述べた。
■三世代同居よりも保育士の処遇改善を
今、ネット上では、子どもが保育園に入れなかったママの「保育園落ちた日本死ね」という書き込みが話題となっている。この問題を、同僚の山尾志桜里衆議院議員が予算委員会で取り上げた際、多くの自民党議員から「誰が書いたか分からないものを国会で取り上げるな!」といったヤジが飛びかった。私は、怒りを通り越して悲しくなった。
保育園に入れず、仕事をやめなくてはならないママたちの悲痛な声は、平気で無視するのに、特定の家族感を押し付けるような“的外れ”な「三世代同居支援事業」には、多額の税金を湯水のように使う。こんなことをやっているようでは、少子化問題は永遠に解決しない。
安倍政権は、税金の使い方を完全に間違えている。
ちなみに、来年度から子どもの貧困対策として、ひとり親家庭の児童扶養手当が、第二子に対して、月5000円から10000円に、第三子に対して、月3000円から6000円に増額される。このこと自体は私も高く評価しているが、この多子加算の予算は、たった28億円に過ぎない。
その一方で、三世代同居支援政策には、5倍以上の150億円がポンとついている。政府・与党のみなさん、今からでも遅くはない。こんな税金のムダづかいの典型のような予算を削り、保育士さんの待遇改善や、子どもの貧困問題に財源を振り向けて欲しい。
「保育園落ちた日本死ね」と書き込んだママからすれば、まさに「こんなことに税金つかってんじゃねーよ」という話だろう。
編集部より:この記事は、衆議院議員・玉木雄一郎氏の公式ブログ 2016年3月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。