あなたの最大のリスクは何か:『首都直下地震』

平田 直
岩波書店
★★★★☆


リスクは被害×確率で考える。1回の被害が小さい事故でも、確率が高いとリスクは大きい。たとえば、あなたが交通事故で死ぬリスクは、年間の死者約5000人を人口で割ると、1/2万6000だ。これが普通の日本人の直面する最大のリスクである。

他方、原発事故の死者は、過去50年間に全世界で60人(チェルノブイリ)だから、年間1.2人。これを世界の人口で割ると1/70億で、1回の事故で1万人が死ぬとしても、そのリスクは1/70万。交通事故の1/27だ。日本では死者ゼロなので、リスクもゼロである。

では地震で死ぬリスクはどうだろうか。東日本大震災のようなプレート境界地震は数百年に1度なので、確率を計算することがむずかしいが、首都直下地震は、かなり規則的に起こっている。内閣府の中央防災会議によれば、最近220年間にM7以上の地震は8回起こっているので、平均27.5年に1度ということになる。

直下型地震が起こった場合の死者は、首都圏全体で最大2万3000人と推定される。発生間隔は不規則なので交通事故のように正確には計算できないが、ざっくり1年間に1/27.5の確率で起こると考えると、2万3000人/27.5=836人が死ぬ計算だ。このリスクは、首都圏に限ると交通事故のほぼ半分で、十分大きい。

マスコミは被害が大きくて確率の低い災害を好んで報道するが、政府が対策を講じる優先順位はリスクの大きさと費用対効果で考えるべきだ。交通事故は1970年の1万6000人に比べると1/3以下に減ったので、これ以上減らすのはむずかしい。

首都圏に住んでいる人のリスクで削減できる費用対効果が高いのは、地震対策である。特に死者の7割は火事が原因と予想されるので、耐火建物を増やすことが重要だ。特に危険なのは、東京の山手線の外側から環状7号線の内側の木造住宅が密集している木密地域である。


図の赤い部分が木密地域だ。あなたの家がこの中にあるとすると、大地震で町全体が火の海になるので、消防車は来ない。大地震のときは1度に300ヶ所ぐらい出火するので、消火できない木密地域には出動しないのだ。

東日本大震災の教訓は、マスコミの騒いだ原発事故より地震・津波のリスクのほうがはるかに大きいということだ。政府は、原発を止めて浪費している何兆円ものコストを、地震対策に投じるべきだ。