ソクラテスの思想なのか?プラトンの思想なのか? --- 岩田 温

プラトンの『国家』をレジュメにまとめているのだが、これを二時間で全て語り尽くすことは絶対に不可能だ。レジュメが膨大な量になることは避けがたい。全てを作成した後に、面白そうな部分を拾い上げていくのがよいか、それとも全てを馬鹿正直に解説していった方がいいのか。非常に悩みどころ。それにしても、改めて読み返してみると、非常に面白い傑作である。

特に何か先入観を持たずに、あるがままにプラトンを読んでみれば、それなりに面白い部分が見つかると思う。

だが、プラトンだけを解説するとなると、他のことを聞きたいという方にとっては、ご迷惑になってしまうから、非常に悩む。やはり、なるべくプラトンの言葉を引用しながら、そのエッセンスを紹介していく方が、いいのだろうか。

改めて紹介するまでもないが、プラトンの著作は対話篇で書かれている。非常に難しいのは、「プラトンの政治思想」、「プラトンの思想」といったとき、誰の言葉を以て、「プラトンの政治思想」、「プラトンの思想」と考えるのか、という問題だ。

何をいう、プラトンの描くプラトンの師匠ソクラテスの言葉こそが「プラトンの政治思想」であり「プラトンの思想」に他ならない、という声もあるだろうが、それは短絡的だ。

仮にプラトンの描くソクラテスの言葉が、全て「プラトンの思想」であり「プラトンの政治思想」であるとするならば、「ソクラテスの政治思想」、「ソクラテスの思想」とは、何なのだろうか?

難しいのはプラトンを強調すれば、ソクラテスはプラトン思想を伝えるためにプラトンに描かれた一人物に過ぎなくなるし、ソクラテスを強調すれば、プラトンとはソクラテスの言葉の忠実な記録者に過ぎないということになる。

プラトンはソクラテスの言葉の単なる記録者に過ぎないと断定できるだろうか?
あるいは、プラトンが描くソクラテスは全てプラトンの意のままによって描かれたソクラテスと断定することは出来るだろうか?

恐らく、どちらと断定することも不可能だ。

我々は幾人かの弟子によって遺された言葉からしか、ソクラテスの思想を捉えることが出来ない。

そう考えてみると、プラトンが描いた対話篇が興味深いのは、ソクラテスの言葉を伝えるだけでなく、敢えて、その反対者、敵対者の言葉を遺し、伝えている点である。そして、プラトンは、全てソクラテスが正しいなどと断言していない。彼は、彼自身の思想に基いてソクラテスの対話篇を描き出した。

ソクラテスの思想、プラトンの思想。
実は、単純なようでいて、奥深い問題なのだ。
 


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とき: 平成28年3月19日10時~17時

ところ: 〒540-6020 大阪市中央区城見1-2-27
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岩田温さん写真


編集部より:この記事は政治学者・岩田温氏のブログ「岩田温の備忘録」2016年3月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は岩田温の備忘録をご覧ください。