アベノミクス最大の賭けであった金融政策は、もはや「八方塞がり」に陥りつつあるのは明らかである。残された道は「撤退」(あるいは「密かな撤退」)で、物価の安定を目指す金融政策が財政に従属せず、その独立性を確保・維持するためには、できるだけ早急に「ゼロ金利ターゲット」に政策体系を移行し、マイナス金利政策(NIRP)や量的・質的金融緩和(いわゆる異次元緩和)の戦線から徐々に離脱することが極めて重要ではないかと考える。
だが、社会保障改革や増税による財政再建が政治的に不可能な最悪の場合、財政の政策的な視点でみると、かなり踏み込んだ意見で上記の議論とは矛盾するが、もし可能ならば、全ての国債(あるいは可能な限り多くの国債)を日銀が買い切り、何らかの処理を行う方法もあると考え始めている(注:より痛みを伴う処理のため、通常の財政再建よりも重い責任と覚悟を伴い、現時点では最終的な判断がつかないが…)。政府・与党や財政当局の立場としては、長期金利が急上昇し、国債市場が制御不可能な状態で財政危機になることは、絶対に回避する必要があるためである。
そもそも、日経BPオンラインの連載コラム「マイナス金利なら、もう日銀に国債は売らない!」の回でも説明したように、マイナス金利は一種の「新税」とも見ることができる。
また、「2015年以降も、日銀は国債買取を急にはやめられない」の回でも説明したように、2006年の量的緩和の解除と同様の手法で、異次元緩和から徐々に撤退する場合、日銀が保有する長期国債のボリュームは2020年度でも250兆円を超える。いまから日銀が買い取る国債の平均償還年限(デュレーション)を短期化する方法もあるが、日銀が保有する長期国債が減少し、市場に流通する長期国債が増加すれば、長期金利が徐々に上昇していく恐れがあり、債務の利払いの増加を通じて、それは財政を直撃する可能性がある(注:社会保障改革や増税による財政再建を行えば問題ない)。
このような事態を回避するため、「異次元緩和やマイナス金利政策を巡る誤解を正す」ために執筆中(未定稿版はこちら)の内容とも関係するが、金利が正常化しても、法定準備率の大幅な引き上げなど何らかの方法で準備(日銀当座預金)を留め置かせ、超過準備の付利をゼロか低めに抑制できれば、日銀は保有する長期国債のボリュームを維持しつつ、実質的に預金課税という形で債務を縮減できる可能性がある(注:提案する筆者も本当は推奨する施策でなく、これで財政問題の全てが解決するわけではないが、一部の問題は解決できる可能性)。
追記:
準備率は、準備預金制度に関する法律(昭和32年法律第135号)第4条から第6条に従い変更できる。
(法政大学経済学部教授 小黒一正)