今週のメルマガの前半部の紹介です。
先日、以下の記事が話題となりました。
「欲ない、夢ない、やる気ない」……現代日本の最大の危機はこの「3Y」にある
筆者自身、同様の話はいろいろな企業の人事担当者から耳にします。「グローバルに活躍したいです」と言って錚々たる大企業から内定をもらった新人であっても、入社後の配属アンケートでは「出来れば国内勤務が希望」とする人間が一気に過半数を超えてしまい採用担当者が頭を抱えている、なんて話は珍しくありません。猫も杓子も海外に行きたがっていたバブル世代とは隔世の感があります。
今の若者は特殊な世代なんでしょうか。だとすれば、その理由はどこにあるのでしょうか。人間のモチベーションというものを考えるいい機会なので、簡単にまとめてみましょう。
いま、日本企業は意欲のないオジサンであふれている
意外に知られていませんが、企業が直面している意欲の低いグループというのは若者以外にもう一グループいて、実は企業にとってはそっちの方が大問題だったりします。それは「40歳以上のオジサン社員」です。
「若いころに働きためた年功でもって40歳以降にポストについて報われる」というのが年功序列制度であり、結果として終身雇用が成立してきました。ただ、実際に「報われる」かどうかは微妙な時代になっていて、恐らく過半数のビジネスマンは課長にすらなれない時代が到来しているという点は、筆者がこれまで何度も指摘してきたことです。
そして、その報われるかどうかの白黒がつくのは、だいたい30代後半です。つまり日本企業の40歳以降のオジサンには、課長以上に昇格して「よしこれからもバリバリ働くぞ」という士気旺盛なオジサンたちと、あと20年くらいヒラのまま飼い殺しされることが確定して「あーなんかもうボチボチでいいわ」と達観しているオジサンの二種類が混在していることになります。後者が意欲の低いオジサンの正体です。
人間は報われると期待しているからこそ頑張れるわけで、その芽が無くなると適当にやっつけて労力を減らすことで「労働対価>労力」を実現しようとする生き物です。要は将来のリターンに期待するのではなく、今あるものに満足するように上手く自己調整してしまうわけです。
まして出世という単線型キャリアパスしかない日本型組織で出世競争から脱落してしまった人間に「あきらめるな頑張れ」というのはどだい無理な話で、こういう意欲の低いオジサンは日本型雇用の副産物みたいなものですね。
ただし、“副産物”というのは数が少ないうちは許容されるものですが、過半数に迫る勢いで増殖してしまうとそれはもはや“主産物”であり、組織にとっては由々しき大問題です。というのも(オジサンたちの属する)総合職正社員というのは、有給放置、全国転勤徹夜上等で会社のために粉骨砕身してくれることを前提に制度設計された身分であり、それがボチボチでいいやと割り切っちゃうと組織としては非常にマズイことになるからです。
というわけで、意欲を喪失したオジサンたちをいかに奮い立たせて再戦力化するかというのは、実は日本企業の人事界隈ではもっともホットなテーマで、人事系の専門誌などではしばしば特集が組まれていたりもしますね。彼ら中高年社員のモチベーションを上げる研修ビジネスみたいのもちょっとした盛り上がりを見せています(個人的にはあんまり効果はないと思いますが)。
ちょっと前までは意欲の無いオジサンの代名詞は大量採用されたバブル世代が代表でしたけど、最近は団塊ジュニアも足を踏み入れつつありますね。筆者の友人の中にも
「会社から異動の提示を受けたけど忙しそうな部署だったので断った」
「食べログ等を見て今日のランチをどこで食べるか決めるのが午前中の最大のミッション」
というほれぼれするような人間がぼちぼち出現し始めています。もともと優秀だっただけに「人材って制度次第でこうも変わるのか」と驚くことしきりですね。
さて、本題に戻りましょう。なぜ、日本では今、意欲の低い若者が出現しているのか。実は日本企業内で意欲の低いオジサンが出現した構図と同じだというのが筆者の意見です。「若者はまだ組織で働いてないじゃないか」と思う人もいるかもしれません。でも日本全体を大きな組織だと考えてみてください。
生まれてこの方、ずっとバブル崩壊後の失われた20年の中で過ごし、社会保障の世代間格差は60歳以上と彼ら20歳未満では一億円を超えているにも関わらず与野党とも完全スルー。GDPも出生率も頭打ちの中で唯一伸びているのが国債発行残高というお寒い状況。
首都圏はまだマシですが、ちょっと地方に行くと状況はもっと寒くて、駅前なのにガラガラの空きビル、たまに新規開店する店が全部街金とか介護サービス関連で、公立小中学校は続々と老人介護施設にリニューアル……
うちの地元は一応新幹線も止まる駅ですけど、それで↑な感じですね。田舎帰るたびに思いますが、そういう状況で「将来は成功してでっかい家とフェラーリ買うぜ」みたいな人も、まあ探せばいないではないでしょうが、現実には「多くは望まない、今あるものに満足したい」と考える若者の方が圧倒的に多い気がします。そう、これから頑張ってもリターンは望み薄なのでボチボチでいいやというオジサンたちと同じですね。
というわけで、中高年再戦力化セミナーの講師みたく「死ぬ気で頑張ろうよ!お前ならやれるよ絶対!」ってオジサン煽り立てるのも「若者はもっと大志を抱け」といって若いのの尻蹴飛ばすのもあんまり効果はなくて、その前にまずは頑張ればしっかりリターンがついてきそうな諸々の制度に変えるのが筋だろうというのが筆者のスタンスなわけです。
以降、
意欲を復活させた企業にみる日本復活の鍵
いくつになっても意欲をキープする方法
※詳細はメルマガにて(夜間飛行)
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2016年3月10日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。